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土地・建物(マンション・アパート・店舗・事務所等)を賃借する借主の居住トラブルの解決をお手伝いする組合です。
(被告会社の主張)
本件更新料条項は有効である。
ア 本件更新料条項の法的性質
(ア) 賃料の補充
更新料は,賃料の補充・前払いとしての性質を有する。
a 更新料で賃料を補充することの合理性
賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行った上で毎月の賃料額を設定するのが当然であって,その結果生じる設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について,更新料により補充することは十分合理性を有する。現在では,全国的に賃貸物件は10パーセント以上余っており,京都においても,全賃貸物件のうち20パーセント,場所によっては30パーセントもの空き室が生じており,借り手市場となっていて,他の物件より不利な条件設定をすれば,競争力を失い,空き室に苦しむことになる。一方,賃借人は,更新料の存在によって,契約当初から更新時までは低く設定された賃料で借りることができ,月額賃料を基準に設定される仲介手数料や敷金の支払も少なくて済み,入居しやすいという利点があるし,一般的に更新料の定めのある物件は,更新料の定めのない物件に比べ賃料は割安に設定されており,賃借人は更新料のある物件にするか否かを選択することができる。
b 当事者の合理的意思
賃借人は,仲介業者から,複数の物件の紹介を受けて,物件の所在,設備,広さ等とともに,更新料を含む経済的な出捐(礼金,敷金,賃料及び更新料)を比較対照した上で,物件を選択しており,個別的な契約締結の場面においても,更新料が契約更新時に発生する旨重要事項として説明されるなどしているので,更新料を,更新の際に負担する金銭であり,自己の支出となり,賃貸人の収入となり,返還されない金銭であることを理解している。
したがって,賃借人は,更新料を契約更新時に支払うことが必要であり,賃借する物件を使用収益するのに必要となる経済的負担として把握しているのであり,そのことから更に進めて,賃借人が,更新料を,賃借する物件を使用収益するのに必要な対価として把握していると意思解釈することは正当である。賃借人は物件の使用の対価として,賃料が毎月発生する経済的負担であり,更新料は更新時に発生する経済的負担という認識を有しているのである。
また,更新料は広く利用され,社会的承認を受けてきたものであるから,使用収益の対価であるといえる。そうすると,当事者間で更新料の支払に関する合意がされている以上,その合理的解釈として,使用収益の対価の支払に関する合意がされているものと評価できる。
c 原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,本件更新料条項には中途解約の場合の精算条項がなく,更新料が使用収益期間に対応していないと主張する。
しかし,建物賃貸借における賃料の支払を月ごとと定めた民法614条は任意規定であり,それと異なる賃料前払いや年払いの合意をすることも可能であって,契約更新時に賃借人に補充賃料を支払ってもらうことも自由である。契約期間内に中途解約などによって契約が終了した場合と期間満了の場合とで差はあるが,これについては,中途解約の際は賃借人が更新料の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものであるとか,中途解約に伴う違約金条項としての側面が表れたものであるとか,更新料が賃料の補充のみではない複合的な性質を有しているから差が生じたものである,などと説明することができる。
また,そもそも賃貸借契約は継続的な使用の対価として賃料を設定するため,契約上厳密に使用収益の期間と賃料額を対応させること自体困難であって,そのような完全な対価性を有していないことをもって,不合理であるとはいえない。
そして,本件の更新料は,1年間の更新期間ごとに支払うものであり,更新しなければ支払う必要がないから,この点で,まさに使用収益の期間に対応して支払うことが予定されているといえる。さらに,賃借人が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は,ほぼ賃貸期間に比例している上,賃貸人たる被告会社においてはこれを収入の予定として,賃借人たる原告においては支出の予定として,あらかじめ契約締結時に互いに納得していたのであるから,本件居室の使用収益の対価としては,毎月支払われる賃料と1年ごとに支払われる更新料の2本立てになっていた,すなわち,本件の更新料は賃料の補充ないし賃料の前払いとしての性質を有していたと解するのが,当事者の合理的意思に合致する。
(イ) 更新拒絶権放棄の対価
更新料が授受されて賃貸借契約の合意更新が行われる場合,賃貸人は,正当事由があるときでも,正当事由が存在しないことが明らかではないときでも,更新拒絶をしないで契約を合意更新することになるから,その意味で,更新料は,賃貸人が更新拒絶権を放棄し,その結果賃借人が更新拒絶権行使に伴う紛争を回避することができることの対価としての性質を有する。
賃借人も,更新料にはこのような性質があると思えばこそ,更新時に更新料を支払うのであるから,更新拒絶権放棄の対価としての性質も有していたと解するのが当事者の合理的意思に合致する。
原告及び被告Aは,更新拒絶権の行使可能時期の点を問題とするが,賃貸人は,契約期間満了6か月前までに更新拒絶権放棄をいわば先履行し,契約更新時に,賃借人からその対価としての更新料の支払を受けるというように説明することは十分に可能である。
また,原告及び被告Aは,更新拒絶の正当事由が認められることは考えられないと主張するが,正当事由の有無を明確に判断できない場合も少なくなく,そのような場合に,賃貸人が更新拒絶権を放棄して紛争を回避することも多い。
(ウ) 賃借権強化の対価
更新料を支払って賃貸借契約が合意更新され,契約期間中は賃貸人から一切解約申入れがされない賃借人の立場と,法定更新となって,いつ正当事由に基づく解約申入れがされるか分からない賃借人の立場には差異があるから,この意味で,更新料の支払により賃借権は強化されるし,そのように解するのが当事者の合理的意思に合致する。
イ 前段要件該当性
契約の要素と主たる給付の対価に関する条項のことを中心条項といい,これを付随条項と区別すべきであるが,消費者契約法10条前段は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」という文言で規定されているところ,契約の要素や価格のように,あらかじめ与えられた法的基準ではなく,専ら当事者の自由意思や,市場経済システムに基づく需要と供給によって決定される事項に関しては,「比べる」適切な法的基準が存在せず,同条による司法的内容審査には服さないとの趣旨と解すべきであるから,中心条項には同条は適用されない。
そして,中心条項と付随条項の区別は,市場メカニズムが一定程度機能しているか,当事者の主観的意思が関与しているかによって行うべきである。本件更新料条項は,その法的性質からは,賃料の補充という意味で主たる給付の対価である上,その契約書や重要事項説明書の記載上主たる給付の価格条項たる賃料と並べて記載されており,賃借人の意思決定の考慮要素となっているから,市場メカニズムが機能し,当事者の主観的意思も関与しているといえる。したがって,本件更新料条項は,中心条項であり,消費者契約法10条前段は適用されない。
ウ 後段要件該当性
(ア) 判断基準
後段要件は,その条項を無効にすることによって事業者が受ける不利益と,その条項が有効であることによって消費者が受ける不利益とを総合的に衡量し,消費者の受ける不利益が信義則に反し均衡を失するといえるほど一方的に大きい場合に,該当性が認められる。
また,契約の核心的合意部分については,契約当事者の関心が強く,市場メカニズムが機能することが期待できるため,後段要件該当性の判断については更に謙抑的な基準が適用されるべきであり,消費者の受ける不利益が一方的に害されかつその程度が格段に大きい場合に限り,後段要件該当性が認められると考えるべきである。
本件更新料条項は,前記イのとおり中心条項であり,上記の核心的合意部分である。
(イ) 本件更新料条項の合理性等
本件更新料条項は,前記アのような性質を有する合理的なものであるし,更新料の金額も,本件居室の状況に加え,契約期間や月額賃料の金額等の事情に照らせば,過大なものではない。
また,建物賃貸借契約における更新料の約定は,40年以上にわたり全国的に広範囲に使用されており,社会的に慣行として承認されている。
企業の中には,賃貸物件について更新料の補助制度が設けられているところもあり,行政においても,生活保護では更新料の扶助が行われているし,裁判所においても,調停条項や和解条項等で更新料の定めが認められている。このような社会的承認があることは,更新料条項が合理性を有することの証左である。
さらに,借地借家法においても,更新料は何ら規制がされていない。
(ウ) 情報力,交渉力の格差
近年の居住用建物賃貸借契約は借り手市場であり,賃貸人には零細な事業者が多いが,賃借人は,賃貸物件情報を,インターネット,情報誌,広告等の媒体により,容易に大量に入手することができるところ,物件の広告などにおいて,更新料という用語は広く用いられているし,更新料は賃貸物件の条件提示において明示されており,契約書にも明確な文章で記載されている。更新料は,「約定の契約期間満了後も契約継続する場合にその対価として支払うものである。」という意味においては一般に広く理解されている。
本件においても,賃借人である原告は,数ある賃借物件から,賃貸条件を比較対照して自由に選択できる立場にあった。また,本件更新料条項は,更新料の金額,支払条件が明確である上,原告は,このような更新料の約定の存在やその金額について,仲介業者から説明を受けた上で,本件居室を選定したと考えられ,原告は,その後再び仲介業者から重要事項説明の中で更新料について説明を受けている。
このように,原告と被告会社に情報力,交渉力の格差はほとんどないし,本件更新料条項は,原告に不測の損害あるいは不利益をもたらすものではない。
(エ) 被告会社の不利益
賃貸人は,更新料が社会的に承認されてきたことなどから,更新料を設定して初期の賃料を低くするなどして,更新料を含めた全体の収支を計算し,月額賃料を設定している。本件更新料条項が無効になれば,他の物件の賃貸借関係にも波及し,被告会社は,消費者契約法施行後に締結された全ての賃貸借契約について,受領した更新料を返還しなければならなくなるという不利益を受けることになる。また,実際に原告から支払われた更新料は,被告の収入となり,税務申告をして税金を支払い,賃貸経営の諸経費,生活費などにすでに使用している。本件更新料条項が有効であることに対する被告会社の期待は合理的で,十分法的保護に値するものである。
(オ) 原告の不利益
更新料が設定されている物件は賃料のみの物件よりも月額賃料が低く設定されているのが通例で,原告は,更新時まで低い賃料で借り,仲介手数料や敷金等の初期費用も少なくて済むなどの点で有利であるし,更新料を支払うことで,更新拒絶権の放棄,賃借権強化という利益を得ている。また,更新料は社会的に承認され,多くの賃借人が更新料を支払っており,この点から,更新料を支払っていることの不利益は小さいといえる。さらに,原告は,本件賃貸借契約締結に際し,本件更新料条項について仲介業者から説明を受けた上で契約し,現実に約定更新料を支払ってきたのであり,更新料の厳密な法的性質は認識していなかったとしても,更新料が賃料の補充,更新できることの対価であることを明示的,黙示的に認識して,主体的に,本件更新料条項を含む本件賃貸借契約を締結したということができ,原告は,更新料及び月額賃料といった経済的負担に合理性があると判断していたはずであり,本件更新料条項が原告に不測の損害あるいは不利益を及ぼすことはないし,むしろ,原告は,目的物件の使用収益,契約期間の保護という利益を既に享受している。原告の主張する不利益は,いったん納得して支払った更新料が返還されないというに過ぎない。
(カ) 原告及び被告Aの主張に対する反論
原告及び被告Aは,更新料には何らの合理性,対価性がないから重大な不利益を受けており,本件更新料条項は無効であるという旨の主張をするが,上記(ア)の後段要件該当性の判断基準に照らせば,客観的な対価性を欠けば直ちに無効となるとの解釈には無理がある。また,複合的性質を有する更新料につき,各個別の性質からすべてを合理的に説明できないことをもって,更新料に合理性がないと批判するのも失当である。
(キ) 以上によれば,本件更新料条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとはいえないから,後段要件を満たさない。
定額補修分担金条項の有効性 (借主・貸主の主張)へ続く