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土地・建物(マンション・アパート・店舗・事務所等)を賃借する借主の居住トラブルの解決をお手伝いする組合です。
東借連夏季研修会「賃貸借契約と破産・民事再生・会社再生」要旨
一 賃貸借と破産
賃貸借契約と破産の問題は、借地借家の相談を受ける際に避けて通れない問題になっている。今日話すことは、これさえ押さえて置けば大丈夫であることについて詳しく報告するのでしっかりと理解をしてもらいたい。
日本経済の大きな流れの中でリストラがすすみ、借家契約をどう位置づけていくか考え方が大きく変わった。今までは、貸主借主の当事者の間の利害の調整だけを考えればよかったが、賃貸借契約を大きな枠組みの中で考えていく必要が出てきた。
これからの問題は、貸主・借主以外の債権者との係り、破産・倒産したときの社会的仕組みの中で、借主はどういう立場に置かれているのか、借主の権利をどうやって守っていく手段があるのか考えなければならなくなった。そういう問題意識があったため今回の研修テーマに取り上げた。
<1、賃借人が破産した場合>
①賃貸借契約はどうなるか
お店を借りて商売したが売り上げが上がらず、借りたお金が返せなくなり破産してしまった。しかし、破産しても何とか営業を続けていきたい場合、これまでの民法621条では賃借人が破産してしまうと、その時点で貸主は賃貸借契約の解約を申入れすることができた。
ところが、破産法制の一環として、何とか挽回の機会を与えようと、平成16年の法改正(平成17年3月1日施行)で民法旧621条は削除された。その結果、賃借人が破産しても賃貸人は賃貸借契約の解約ができなくなり、家賃さえ支払っておけば営業を続けることも住むこともできるようになった。
借地についても同じだが、銀行から融資を受けて建物を建築し、支払いが出来なくなった場合、破産手続をとらず、建物の任意売却或は競売で資金の回収をするので破産というケースをとることは少ない。
②賃料はどうなるか
賃借人が自己破産の申立てをする。裁判所から破産手続き開始決定が出され、それまでにたまっていた賃料は破産債権になる。
破産した場合に破産者が有していた財産、例えば売掛金、商売道具は財産となり、破産管財人が回収し財源を作る際に債権者は自分の債権をそれぞれ届け出る。家主は滞納家賃の債権を届け出る。そういう債権を破産債権という。
そうして回収した債権を割り振って払っていくことになるが、戻ってくることがほとんどなく、保護されない債権となる。家主は延滞賃料を全額回収することは困難となる。
破産手続き開始決定後の賃料については、財団債権となる。賃借人への解約の権利を奪ったためにその見返りとして、賃貸人には賃料の受領が財団債権の中で一番優遇され優先的に保障される。
<2、賃貸人が破産した場合>
①賃貸借契約はどうなるか
家主が破産すると破産管財人が必ずつく。家主の地位権限が破産管財人の方に全て移ってしまう。破産管財人が賃貸借契約の当事者になり、全て破産管財人と交渉することになる。
組合に家主が破産したと言う相談があったとき、誰が破産管財人になったか聞き、通常は弁護士が破産管財人になるが、今後のことは破産管財人(弁護士)との関係でやっていく必要があると助言する必要がある。家主が家賃を取りに来ても相手にしてはならない。
破産管財人は賃借人が対抗要件(借家の場合は引渡し、借地の場合は登記=借地上の建物登記)を備えている場合には賃貸借契約を解除できない。引渡しを受けて使っていれば普通の借家契約は対抗要件が備わっているので大丈夫。家主が破産しても心配することはない。破産管財人が家主の役割をしてくれる。
賃借人が対抗要件を備えていない時は、破産管財人から賃貸借契約を解除されて明渡さざるを得なくなる。このケースは、お店を借りて権利金等も払って準備している途中、契約して引渡しを受けてない状態で家主が破産してしまう場合で、借家の対抗力がないのでこれは大変不利になる。
②請求権の性質
賃借人が破産管財人に対して有する請求権は、賃貸借契約の目的物は使用収益することができる権利であり、これは財団債権となる。(破産法第56条2項)=このことは、賃借人が破産管財人から賃貸借契約が保護されることを意味する。
③賃料について
これは今までと変わったのでしっかりと覚えておく必要がある。家主は破産直前になると困って家賃を前払いするよう借家人にいってくる場合がある。
今までは前払いしても家主が破産すると前払いの回収が駄目だった。従って二重払いの危険があった。
これからは前払いしてあることを領収書など示せば、前払いしていたことを主張できるようになった。従って二重払いをする必要がなくなった。
家主が破産する前に、賃料債権を他に譲渡していたときは、破産管財人はその賃料債権を取り立てることはできない。家賃を破産管財に支払いをすることは不可である。賃貸人は賃料債権の譲渡を破産管財人に対して対抗できる。その場合は、賃料の債権譲渡を受けた方に借家人は家賃を払わないといけない。
不動産が証券化し、リートという金融商品がどんどんできている。不動産業者がオフィスビルやショッピングセンターを造って貸すと家賃が入る。今までだと銀行からお金を借りて建物を建てて家賃で少しずつ回収していたが、まどろっこしい。入ってくる家賃を配当に回し、物件の価値はこのぐらいですよといって証券にして売り出す。銀行は借りたお金は売り出したお金で回収し利益を上げられる仕組みになっている。
その時にこの仕組みにしないと金融商品は動いていかない。売り出したときに家賃前払いは、いくらするという取り決めをする。いい物件は前払いするケースが多い。自分の身内に未払い債権を回収するために売り、わざわざ家賃の取立てをしない。そういう時売ったものが保護されないとその仕組みが動かなくなってしまう。
どういう結果を生むかといえば、破産財団がやせ細ってしまう。一般の債権者には配当しなくても構わないという仕組みにしている。金融資本が有利になるよう法制度が変えられている事例である。
④賃借人の有する債権と賃料相殺の可否について
借家人が家主に対して有する債権とは、例えば屋根が壊れて自分の費用負担で修繕した。本来なら、必要費は直ちに家主に支払ってもらえるものである。家主が支払いを拒む場合は、内容証明で必要費分を家賃で相殺すると通告して、それを実行し、費用負担した修繕費を回収する。
しかし、必要費を請求し、払ってもらえないうちに家主が破産してしまった。破産がなければ将来の家賃と相殺するという内容証明を出していたが、それと同じことでいいことになった。
破産の手続きが開始されると、借家人の方で家主に対して持っている債権、普通だと破産債権になるが、それはあまりに可哀想だということでこれから払う家賃で相殺が無制限に出来ることになった。必要費については賃料債権と相殺することで回収が出来る。
但し、比較的規模の大きいところ、貸主の関係で民事再生になってしまうと無制限ではない。民事更生とか会社更生は将来生かしていく目的があるので、無制限に家賃から相殺してしまうと立ち直る原資が不足してしまうからである。
民事再生、会社更生の場合には、手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務のうち6か月分相当額についてのみ相殺できる(民事再生法第92条2項、会社更生法第48条2項)。
例えば、借主の方に200万円の債権がある場合は、家賃30万円だと180万円だけ回収できる。家賃が50万円だと6か月で300万円なので200万円は全額回収できる。家賃の6か月分に限定・制限される。
だけれど、借主の方が家主に債権を有することはできるだけ避けた方がいい。修理などは自分でやらないで家主にやらせる方が良い。立替えた修理費用が全額回収出来なくなる恐れがあるからだ。
⑤保証金・敷金について
預けたお金の性質をはっきりさせる必要がある。保証金と敷金の性質をはっきりさせて、敷金は建物を明渡した後返してもらえる。保証金というのは借家人が家主に対する貸金として分離して扱った方がよい。
今までは保証金は家主が破産すると返って来ないので敷金の方が有利だよという話をしていた。今度はまるっきり逆で、保証金については貸金ということで、借家人が家主に対して債権を有するパターンに当て嵌まり、家賃で直ちに相殺することが出来るように変わった。従って、保証金は破産になると自動的に償却できることになった。
敷金を保護するために、これからは返るべき敷金をとっておいてもらうために賃借人は破産管財人に対して寄託の請求をすることができる(破産法第70条)。しかし、寄託の請求手続を破産管財人に対して自ら行わないと敷金は戻ってこない場合がある。従って必ず賃借人は破産管財人に対して、支払額の寄託を請求する必要がある。
出来るということは怖いことで言わないと破産管財人はやってくれない。家主が破産したという通知があったときに、破産管財人に対してこれから払う家賃を敷金としてとっておいてほしいと、家賃の5か月分の敷金であれば「寄託してくれ」と5回内容証明郵便で通知する必要がある。寄託の請求をしておけば敷金は返ってくる。
民事再生、会社更生の場合には、寄託請求の制度が無いので手続はとれない。手続開始後に賃料債務を支払ったときは、敷金の返還請求権は賃料の6か月分の範囲内における支払額を限度として共益債権とする(民事再生法第92条3項、会社更生法第48条3項)。従って敷金返還請求権は6か月までに制限される。
保証金については、従来は敷金として取扱った方が法的に保護されていた。しかし今後、保証金は貸金債権として扱った方が、直ちに賃料債務と相殺できるので有利となった。今後、保証金は貸金と主張する必要がある。6か月分以上の敷金は返ってこない。
二 競売と賃貸借契約
<1抵当権設定前の賃貸借契約について>
抵当権設定前から借りている場合は、新しい買受人に対して賃貸借契約を主張できる。買受人は前の所有者と賃借人との契約内容をそのまま承継しなければならないので契約は継続され、居住権は守られる。
ところがそういうケースはまれで、建物を建築する場合には銀行から建築資金を借り、建物の保存登記とあわせて抵当権の設定登記がされ、抵当権の設定登記の後に借りる方が一般的である。
<2抵当権設定後の賃貸借契約について>
競売によって買受けた人に対しては賃借人は対抗できない。借家人は弱く原則では負けてしまうが、例外的に今まで民法の395条では建物については3年間だけ抵当権の後に借りた人でも保護される。2004(平成16)年の4月1日にこの規定が廃止された。
平成16年4月1日以降は買受人に対して猶予期間として6か月間だけしか借りることができなくなった。さらに、買受人の方から家賃とはいわず使用の対価につき1か月分以上の支払いを催告されたにもかかわらず払わないと、6か月の保護はなくなって明渡さなくてはいけなくなるというように法律が変わってしまった(改正民法第395条2項)。
平成16年3月31日までに締結された契約期間3年以内の契約は395条の短期賃貸借の保護がある(付則第5条短期賃貸借契約に関する経過措置)(注)。相談を受ける際には、何時から借りたかを押さえて置く必要がある。
(注) 「短期賃貸借に関する経過措置」により次の条件を満たしていると「短期賃貸借の保護」が継続される。
即ち、「この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施工後に更新されたものを含む。)のうち民法602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による。」(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律・平成15年8月1日法律第134条、「短期賃貸借に関する経過措置」附則第5条)。
この附則第5条により抵当権設定後の建物賃貸借であっても平成16年3月31日までに契約された対抗力のある期間3年以内の建物賃貸借契約の場合は「短期賃貸借の保護」が適用され、その後の更新も認められる。
<質疑応答>
(Q1)借主は、管財人に対して家賃も含めて契約の内容を解るように通知書を出さないといけないのか。
(A1)破産した人は、賃貸借契約の内容を破産管財人に説明しなければいけない。貸主の説明は一方的なものなので正しいかどうか解らない。従って、借主の方として差し入れているお金の内容を説明し、誤解のないようにしておく必要はある。敷金だというのは注意が必要だ。保証金の名目はいろいろな要素が入っている。例えば敷金や貸金、保証金の償却など入っているが、位置づけについて貸金の部分が圧倒的多いということを言っておく必要がある。
(Q2)言っておくだけでいいのか。
(A2)最終的にはもめることになる。保証金が敷金でもめることになる。今までと逆で保証金と言った方が有利だ。保証金であれば家賃で落とすことが可能になる。
(Q3)破産管財人が任意売却できなくて、競売になるとどうなるか。
(A3)一般的にいうと競売の方が賃借人に不利になる。家主が破産して破産管財人がついても銀行は独自に担保持っているので拘束されない。独自に競売しようとする。そこで折衝する。任意売却するときに、破産管財人と銀行とで双方で値段をつけ、いくら破産財団にお金を回してくれるかで任意売却先が決まる。任意売却だと賃貸借契約を引き継ぐ形のパターンとなる。それがまとまらないと破産でいくか競売でいくか又分かれてしまう。競売は買受人がいくらで買うか判らないのでどれだけ回収できるか銀行としては不安がある。多少損をしても確実に改修できる方法を選ぶ。ただし、売却しても利益がでないと破産管財人は放棄してしまうので、銀行だけが競売に回すケースも出てくる。
(Q4)寄託の請求はどういう方法でやるのか。
(A4)請求をしたかどうかでもめるので内容証明で行なう。
(Q5)寄託とは何か。
(A5)破産管財人は入ってくるものを一つの財布に入れてしまう。寄託の請求をすると、破産管財人は別の財布にして銀行の方に入れるようにする。借家人は敷金返還のために寄託を請求致しますと文書をつける。
(Q6)寄託請求は家賃を支払う際に毎回するのか。
(A6)敷金が5か月分あったら5回寄託の請求をした方が間違いはない。
(Q7)賃借人が破産して契約を継続しても、また家賃を滞納した場合はどうなるか。
(A7)一般の賃貸借の条項に基づいて判断される。家賃が少し遅れたことだけで契約解除が有効になるのではなく、信頼関係破壊かどうか総合的に判断される。破産管財人と連絡が取れず、家賃が2か月滞納するケースもある。
(Q8)古い契約書には、よく「賃借人が破産した場合は契約解除できる」という条項が書かれているが、これは有効なのか。
(A8)今度の改正で無効である。
(Q9)建物明渡し猶予期間中の使用の対価について、相手側が今までの家賃額が安いからといって高い金額を言われても払わないといけないか。
(A9)本来の家賃が15万円の家賃なのに8万円しか払っていないケースは、買受人は15万円を請求する。これを使用の対価という。当然争いになる。借家人は10万円と主張し、10万円を払っておけば解約にならない。6か月の猶予期間は認められるが、のちのち差額の5万円めぐってお金の請求という問題は残る。
(Q10)使用の対価を払わないとどうなるか。
(A10)払わないと裁判所から引渡し命令が出て、追い出されてしまう。
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