判例紹介
建物賃借人が差し入れた敷金の返還請求権に質権が設定されている状態で、当該建物が譲渡された場合にも、敷金返還義務は新所有者に引継がれるとされた事例 (大阪高裁平成16年7月13日判決、金融・商事判例1197号)
(事案) すし店を経営する賃借人が賃貸人に差し入れていた敷金1000万円に質権を設定して信用金庫から700万円の借金をした。賃貸人はこの質権設定を承諾していた。賃貸人は建物を第三者に譲渡したが、その後、賃借人は破産してしまい、賃借建物から退去した。信用金庫は、賃借人から貸金の回収ができないので、旧賃貸人に対して、質に取った敷金返還請求訴訟を提起した。
一般の場合、賃借建物が譲渡されれば賃借人の敷金返還請求権は新建物所有者に引継がれる。だが敷金返還請求権が質に取られている場合、質権の効力によって、賃借人の敷金返還請求権は新建物所有者に引継がれないのではないかということが争われた。
一審の神戸地裁尼崎支部は引継がれないとして、信用金庫から旧賃貸人に対する敷金返還請求を認めたが、大阪高裁はこれを逆転して、新賃貸人に引継がれると判決した。
(判決の要旨) 「建物賃貸借契約において、当該建物の建物所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は未払い賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される(最高裁昭和44年7月17日第一小法廷判決)。
その理由は、敷金は、本来賃料その他の賃借人の債務を担保するものであること、物件所有者に承継させる方が返還請求権を実行あらしめることになること、旧賃貸人、賃借人、新賃貸人間の敷金に関するその都度の清算を省略でき簡便であること、承継を前提に新旧賃貸人間で物件譲渡契約の内容を決定すればよく、特に不都合はないことなどである。
敷金返還請求権に質権が設定された場合でも、敷金としての性質に変更が生じるとは考えられない。質権者にとっては、賃貸建物の譲渡により敷金返還義務が移転することになるのでは返還義務者(新賃貸人)の資力が低下する恐れや、誰が承継するのか不明であるという不都合がある。しかし、資力の低下は賃借人にとっても同じであるし、敷金返還請求権自体が支払い時期や支払額が確定しておらず元々不安定な権利であるから、第三債務者変更による不安定さは質権者が甘受すべきものである。」
(説明) 敷金返還請求権に質権を設定して賃借人が借金をすることは珍しくはないが、質権者となって賃借人に金を貸した債権者が建物譲渡前の旧賃貸人に対して敷金の返還請求をするというケースはあまりなく、地方裁判所と高等裁判所で判断が分かれた事件なので判例紹介した。 2005.3.
(東借連常任弁護団)東京借地借家人新聞より
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