(問)<賃料の増額について>という文書が地主から送られてきた。
次のような趣旨の文面です。「本件土地の地代は月額11万4000円(内訳は借地面積76坪で、1坪当たり1,500円)ですが、4月以降月額26万円に増額したいと考えております。貴殿におかれては、上記増額にご同意いただけるか、ご同意いただけないのであれば、いくらまでの増額であれば同意できるのか、端的にご回答いただくようお願いいたします。端的な回答がなければ、増額を拒否したものと受け取らせていただき、その後は裁判手続きに進ませていただきます。」
文書到達後、20日以内の回答を求めています。どのような回答をすればよいのでしょうか。
(答)以下が地主への回答例です。
<先般受け取った通知に対する回答>
(1)「借地借家法」11条1項に「地代等」の増額請求権の「成立要件」として、次のように規定しています。
①公租公課の増加により、
②土地価格の上昇、その他経済事情の変動により、
③近傍類似の土地の地代に比較して不相当となったとき
以上の「法律要件」が満たされたときは契約の条件にかかわらず、将来に向かって地代等の増額請求ができると規定している。
(2)現行地代11万4000円を2022年4月以降に26万円に増額したいのであるから、当然上記の「法律要件」を充足する明確な算定資料に基づいて計算された結果による増額請求だと思います。
「法律要件」を満たす算定資料の提示をお願いします。資料の提示を頂ければ、算定資料を検討し、増額理由に十分納得が出来れば、言うまでもなく増額には応じる所存でございます。
地代の合意をするためにも、納得ができる算定資料に基づいた方が当事者間の合意形成は速いと思います。裁判も考えておられるならば、裁判に耐えられる客観的な資料に基づいた増額の主張は重要だと思います。
(3)「借地借家法」11条2項に次のように規定されています。
「地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。」と規定しています。
地代額は当事者間の協議による合意で決定されることが原則です。一方的な増額請求で地代が決定される理由にはならないと条文から判読できると思います。
(4)現在、地代の改定に関しては当事者間の協議もなされず、当然地代増額の合意も成立していません。「借地借家法」11条2項の規定に従って地代の増額改定合意が成立するまでは、賃借人が「相当と認める額」を支払います。
「相当と認める額」は賃借人が「主観的に相当と認める額」とされ、賃借人の相当額が裁判所の認定額に満たなかった場合でも、賃借人が主観的に判断する相当額の賃料を支払うことで債務不履行の責を負わない(最高裁平成5年2月18日判決)。
以上から勘案すると賃料の合意が成立、または裁判所の判断する適正賃料が確定するまでは、賃借人が「相当と認める額」である従前賃料11万円4000円を支払いますので、お含み置きください。
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2022.02.22
| 地代・家賃の値上げ(減額)
(問)地主から更新に際し、「更地価格の3%程度の更新料を支払う意思はあるのか」という通告文が送られてきた。
内容は、次のような趣旨の文面だった。
「本件賃貸借契約は、本年10月31日をもって終了します。私共は、現時点では本契約の更新はしたくないと考えております。・・・更新を希望するのであれば本件土地の更地価格の3%程度の更新料を支払う意思があるかについてご回答いただきたい。なお、回答は本書面到達後2週間以内でお願いします」というものでした。
更地価格の3%程度の更新料というと約240万円程です。借地契約書には更新料を支払う特約の記載はありません。コロナ禍で支払う余裕がありません。どうしても支払わないと借地契約は更新できないのでしょうか。
(答)結論を先に書きます。更新料を支払う約束をしていないので、更新料を支払わなくても、借地契約を解除されることなく、借地の更新はできます。
借地契約の期間満了後、借地契約は「借地法」6条の規定に従って自動更新される。再度、地主側と借地契約書を取り交わさなくても、法律の規定によって、自動的に更新される。従前の契約がそのまま継続されるので、借地契約を結び直す必要はない。
なお、本件借地契約は、「借地借家法」施行前に設定された借地権なので、「借地借家法」附則6条により「契約の更新に関しては、なお従前の例による」ということで、旧「借地法」が適応される。
以下の回答文は、地主に更新料支払裁判行っても、敗訴することを理解してもらうためのものです。無駄な裁判を提訴させないための防御例文です。
(1)<更新料に関する回答>として、更新料支払い請求裁判の判例を資料として提示します。
一審・・・東京地裁昭和48年1月27日判決(判例時報709号53頁)
控訴審・・・東京高裁昭和51年3月24日判決(判例時報813号46頁)
上告審・・・最高裁昭和51年10月1日判決(判例時報835号63頁)
<事案> 昭和41年7月、借地期間満了前に賃対して、更新料を希望するならば、更地価格の5~10%(3.3㎡当たり2~4万円)の更新料の支払いを求めた。賃借人は3.3㎡当たり5000円なら払えると回答したが、折り合いがつかなかった。その後、弁護士のアドバイスを受けて、更新料の支払いを拒否した。
昭和41年12月、賃貸人は賃借人に対して、①建物収去・土地明渡を求め、東京地裁に提訴した。②予備的に更新料支払の商習慣ないし事実たる慣習が存在するから、本件土地の更地価格の8%に相当する78万円余の更新料の支払を訴求した。
1、一審は、借地契約の法定更新に当たって賃貸人の請求があれば、更新料支払い義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習があることは認められない。仮に、そのようなものがあるとしても借地法11条の規定の精神に照らし、その効力を認めることができない。それらのことから賃貸人の主位的請求①と予備的請求②をいずれも棄却した。
2、控訴審も、一審と同旨を述べて、賃貸人の控訴を棄却した。
3、上告審は次のとおり判示し、賃貸人の上告を棄却した。
「宅地賃貸借契約における賃貸借期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば、当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない」(最高裁第二小法廷昭和51年10月1日判決)
(2)上記の事案は、契約書に更新に際して更新料を支払うという旨の約束事項が記載されていなかった。従って、法律的には更新料の支払いを請求する根拠がないない訳である。そこで賃貸人は苦肉の策として、地主本人の勝手な解釈に基づいて、更新料支払いの「慣習法」が既に広く成立しているということを根拠に更新料を支払えと主張した。勿論、裁判では全く認められず、結果は完敗であった。
(3)次の判例も上記と同趣旨の判例です。
<最高裁昭和53年1月24日判決(昭和52年(オ)第1010号)>
「建物所有を目的とする土地賃貸借における賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求請求に基づき当然に賃借人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」
昭和51年10月1日最高裁判決と同様に「更新料の支払合意がない借地契約」の場合は、賃貸人の一方的な更新料支払請求を一切認めていない。
(4)<東京地裁平成20年8月25日判決>
1、<事案>平成20年2月に借地契約は法定更新された(3回目の更新)。
しかし、賃貸人は旧「借地法」の規定によって「借地契約は前契約と同一条件で借地権は設定されている」にも拘らず、150万円(土地時価の5%)の更新料を請求して提訴した。借地契約書には一切更新料に関する支払特約の記載がなかった。
2、判決は<最高裁昭和51年10月1日判決>を引用して、次のように判示した。
「宅地賃貸借契約における賃貸借期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば、当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するとはいえない」(最高裁第二小法廷昭和51年10月1日判決)として、賃貸人の更新料支払い請求を棄却した。
(5)以上、判例を検討した結果、次ののような結論になります。借地契約書に「更新に際して更新料を支払う旨の特約」が書かれていない場合、更新料を請求する法的根拠は存在せず、更新料の支払い義務は発生しない。これらのことは判例上既に確立した事実となっている。
(6)今回の更新料支払い請求に対する回答は以下のようになります。
契約書に更新料支払い特約が書かれていない場合の更新の支払い請求は、法律的には無効ということが判例上明確な結論となっています。従いまして、今回の更新料の支払い請求に関しましては、最高裁の判例の結論に付き随うことにします。
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2022.02.17
| 更新料(借地)
最高裁判例
宅地賃貸借契約の更新に際し、賃貸人の一方的な更新料の支払い請求に対し更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習はないとして更新料請求を認めなかった事例
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人小林宏也、同本多藤男、同長谷川武弘の上告理由第1点について
原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人の所論所為をもって、未だ本件賃貸借契約の継続を不可能又は著しく困難ならしめるものとは認めるに足りないとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第2点について
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができその過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、独自の見解を主張するものであって、採用できない。
同第3点及び第4点について
記録及び原判決事実摘示に照らし、所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大塚喜一郎、裁判官岡原昌男、同吉田豊、同本林譲、同栗本一夫
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強調文
2022.02.16
| 更新料(借地)
最高裁判例
借地人の供託した賃料額が借地法12条2項の相当賃料と認められた事例
(最高裁平成5年2月18日判決 裁判集民事167号下129頁)
主 文
原判決中上告人(賃借人)敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消す。
前項の部分に関する被上告人(賃貸人)の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人(賃貸人)の負担とする。
理 由
上告代理人永原憲章、同藤原正廣の上告理由について
(1) 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人(賃借人)は、昭和45年5月23日、被上告人(賃貸人)から、第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を、建物所有を目的として、賃料月額6760円で賃借し、右土地上に同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。
2 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、本件土地の賃料を、昭和57年9月13日ころ到達の書面で同年10月1日から月額3万6052円に、昭和61年12月30日到達の書面で昭和62年1月1日から月額4万8821円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした後、本件土地の賃料が右各増額の意思表示の時点で増額されたことの確認を求める訴訟を神戸地方裁判所に提起した(同庁昭和62年(ワ)第36号、以下「賃料訴訟」という。)。
3 被上告人は(賃貸人)、上告人(賃借人)に対し、賃料訴訟の係属中の昭和62年7月8日到達の書面で、昭和57年10月1日から同61年12月31日まで月額3万6052円、昭和62年1月1日から同年6月30日まで月額4万6000円による本件土地の賃料合計211万4652円を同年7月13日までに支払うよう催告するとともに、右期間内に支払のないときは改めて通知することなく本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
4 上告人は(賃借人)、被上告人(賃貸人)に対し、従前の月額6760円の賃料を提供したが、受領を拒絶されたため、昭和59年5月12日に同年6月分まで月額6760円、昭和62年1月28日に同59年7月分から同62年6月分まで月額1万140円、昭和62年7月10日に同年7月分から同年12月分まで月額2万3000円を、いずれも上告人(賃借人)において相当と考える賃料として供託した。
5 昭和62年12月15日、賃料訴訟において、本件土地の賃料が昭和57年10月1日から同61年12月31日までは月額3万6052円、昭和62年1月1日以降は月額4万6000円であることを確認する旨の判決がされ、控訴なく確定した。昭和63年3月1日、上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間で、賃料訴訟で確認された同62年6月30日までの本件土地の賃料と上告人(賃借人)の供託賃料との差額及びこれに対する法定の年1割の割合による利息を支払って清算する旨の合意が成立し、上告人(賃借人)は右合意に従って清算金を支払った。
6 被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、前記の賃料増額の意思表示のほかにも、昭和47年1月から月額2万2533円に、同53年1月から月額2万6288円に、同55年7月から月額3万1546円に各増額する旨の意思表示をその都度したが、上告人(賃借人)はこれに応ぜず、前記のとおり昭和59年6月分まで当初の月額6760円の賃料を供託し続けた。また、上告人(賃借人)は、本件土地の隣地で被上告人(賃貸人)が他の者に賃貸している土地について、昭和45年以降数度にわたって合意の上で賃料が増額されたことの大要を知っていた。
(2) 原審は、被上告人(賃貸人)の本件建物収去本件土地明渡等請求を認容した第1審判決は、賃料相当損害金請求に関する一部を除いて、正当であるとした。
その理由は、次のとおりである。
1 借地法12条2項にいう「相当ト認ムル」賃料とは、客観的に適正である賃料をいうものではなく、賃借人が自ら相当と認める賃料をいうものと解されるが、それは賃借人の恣意を許す趣旨ではなく、賃借人の供託した賃料額が適正な賃料額と余りにもかけ離れている場合には、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行とはいえず、さらに、そのような供託が長期にわたって漫然と続けられている場合には、もはや賃貸人と賃借人の間の信頼関係は破壊されたとみるべきである。
2 一記載の事実関係の下において、上告人(賃借人)が相当と考えて昭和57年10月1日から同62年30日までの間に供託していた賃料は、賃料訴訟で確認された賃料の約5・3分の1ないし約3・6分の1と著しく低く、上告人(賃借人)は、右供託賃料が本件土地の隣地の賃料に比してもはるかに低額であることを知っていたし、他に特段の事情もないから、上告人(賃借人)の右賃料の供託は債務の本旨に従った履行と認めることはできず、上告人(賃借人)、被上告人(賃貸人)の数回にわたる賃料増額請求にもかかわらず、約12年余の間にわたり当初と同一の月額6760円の賃料を漫然と供託してきた事実を併せ考えると、当事者間の信頼関係が破壊されたと認めるのが相当であり、本件賃貸借契約は昭和62年7月13日の経過をもって賃料不払を理由とする解除により終了した。
(3) しかし、被上告人(賃貸人)の請求は理由があるとした原審の右判断部分は、是認できない。その理由は、次のとおりである。
借地法12条2項は、賃貸人から賃料の増額請求があった場合において、当事者間に協議が調わないときには、賃借人は、増額を相当する裁判が確定するまでは、従前賃料額を下回らず、主観的に相当と認める額の賃料を支払っていれば足りるものとして、適正賃料額の争いが公権的に確定される以前に、賃借人が賃料債務の不履行を理由に契約を解除される危険を免れさせるとともに、増額を確認する裁判が確定したときには不足額に年1割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の利益の均衡を図った規定である。
そして、本件において、上告人は、被上告人(賃貸人)から支払の催告を受ける以前に、昭和57年10月1日から同62年6月30日までの賃料を供託しているが、その供託額は、上告人として被上告人(賃貸人)の主張する適正賃料額を争いながらも、従前賃料額に固執することなく、昭和59年7月1日からは月額1万140円に増額しており、いずれも従前賃料額を下回るものではなく、かつ上告人(賃借人)が主観的に相当と認める額であったことは、原審の確定するところである。そうしてみれば、上告人(賃借人)には被上告人(賃貸人)が本件賃貸借契約解除の理由とする賃料債務の不履行はなく、被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示は、その効力がないといわなければならない。
もっとも、賃借人が固定資産税その他当該賃借土地に係る公租公課の額を知りながら、これを下回る額を支払い又は供託しているような場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨に従った履行ということはできないともいえようが、本件において、上告人(賃借人)の供託賃料額が後日賃料訴訟で確認された賃料額の約5・3分の1ないし約3・6分の1であるとしても、その額が本件土地の公租公課の額を下回るとの事実は原審の認定していないところであって、未だ著しく不相当なものということはできない。また、上告人(賃借人)においてその供託賃料額が本件土地の隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていたとしても、それが上告人(賃借人)において主観的に相当と認めた賃料額であったことは原審の確定するところであるから、これをもって被上告人(賃貸人)のした解除の意思表示を有効であるとする余地もない。
(4) そうすると、原判決には借地法12条2項の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。そして、以上によれば、被上告人(賃貸人)の請求は理由がないことに帰するから、原判決中上告人(賃借人)敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消した上、右部分に係る被上告人(賃貸人)の本訴請求を棄却すべきである。
よって、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官三好達、裁判官大堀誠一、同橋元四郎平、同味村治、同小野幹雄
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2019.03.27
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
移転料の提供により借家法1条の2の正当の事由の補強条件になるという事例
(最高裁昭和38年3月1日判決 民集17巻2号290頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人(賃借人)の負担とする。
理 由
上告代理人坂上富男の上告理由第1点について。
原審第6回口頭弁論調書によれば、被上告人(賃貸人)は所論訴状訂正の申立書により新たな解約申入をする趣旨であることを明確にしていることが認められ、かつ前解約申入と本解約申入に因る各請求は、その基礎に変更のないこというまでもない。所論は、原判決を正解せずこれに違法がある主張するものであって、採るをえない。
同第2点について。
本件訴訟の経過に照し、期限到来後即時に上告人(賃借人)の履行が期待できないこと明らかであるから、被上告人(賃貸人)は予め請求する必要あるものというべく、この点に関する原判決の判断は正当であって、この判断に到達した具体的理由を判示しなければならないものではない。所論は理由なく、排斥を免れない。
同第3点について。
原判決が、その認定した当時者双方の事情に、被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に金40万円の移転料を支払うという補強条件を加えることにより、判示解約の申入が正当の事由を具備したと判断したことは相当であって、借家法1条の2の解釈を誤った違法や理由不備の違法は認められない。所論は独自の見解に立脚するものであって、採用しえない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官池田克、裁判官河村大助、同奥野健一、同山田作之助、同草鹿浅之介
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2019.03.25
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
借家法1条の2に基づく解約を理由とする家屋の明渡訴訟において当事者の明示の申立額を超える立退料の支払と引換えに明渡請求を認容することを相当と認めた事例
(最高裁昭和46年11月25日判決 民集25巻8号1343頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人桂辰夫、同津田雄三郎の上告理由第1について。
原判決は、第1審判決の理由を引用することにより、本件賃貸借契約は、被上告人(原告)が期間満了前適法な更新拒絶の意思表示をしないまま期間が満了したため、右期間満了後は、期間の定めのないものに更新されたと判示しているのであって、所論の点につき、判断を遺脱した違法はない。しかして、借家法2条によって更新された賃貸借が、期間の定めのない賃貸借となると解すべきことは、既に当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和27年1月18日判決 民集6巻1号1頁、同28年3月6日判決 民集7巻4号267頁参照)。従って、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第2について。
原審は、被上告人(被控訴人)が、本件賃貸借契約の更新後である本訴において、解約申入を原因とする主張を維持していることから推断して、所論の準備書面をもって黙示的に解約申入をしているものと判断しているのであって、右判断は正当である。されば、原判決に所論の違法はなく、所論は原判決を正解せず、これを非難するものであって、採用できない。
同第3について。
被上告人の本件係争店舗の敷地利用計画に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠によって肯認されえないではなく、この事実を本件賃貸借契約の解約申入に関する正当事由として考慮した原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。従って、論旨は採用できない。
同第4について。
原審の確定した諸般の事情のもとにおいては、被上告人(賃貸人)が上告人(賃借人)に対して立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払と引き換えに本件係争店舗の明渡を求めていることをもって、被上告人の右解約申入につき正当事由を具備したとする原審の判断は相当である。所論は右金額が過少であるというが、右金員の提供は、それのみで正当事由の根拠となるものではなく、他の諸般の事情と綜合考慮され、相互に補充しあって正当事由の判断の基礎となるものであるから、解約の申入が金員の提供を伴うことによりはじめて正当事由を有することになるものと判断される場合であっても、右金員が、明渡によって借家人の被るべき損失のすべてを補償するに足りるものでなければならない理由はないし、また、それがいかにして損失を補償しうるかを具体的に説示しなければならないものでもない。原審が、右の趣旨において500万円と引き換えに本件店舗の明渡請求を認容していることは、原判示に照らして明らかであるから、この点に関する原審の判断は相当であって、原判決に所論の違法は存しない。従って、これと異なる論旨は、採用しえない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官藤林益三、裁判官岩田誠、同大隅健一郎、同下田武三、同岸盛一
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2019.03.22
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最高裁判例
建物の賃貸人が解約申入後に提供又は増額を申し出た立退料等の金員を参酌して当該解約申入れの正当事由を判断するとした事例
(最高裁平成3年3月22日判決 民集45巻3号293頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人澤邊朝雄、同植原敬一、同藤井司の上告理由第1点の第2について
建物の賃貸人が解約の申入れをした場合において、その申入時に借家法1条ノ2に規定する正当事由が存するときは、申入後6か月を経過することにより当該建物の賃貸借契約は終了するところ、賃貸人が解約申入後に立退料等の金員の提供を申し出た場合又は解約申入時に申し出ていた右金員の増額を申し出た場合において、右の提供又は増額に係る金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断することができると解するのが相当である。何故なら、立退料等の金員は、解約申入時における賃貸人及び貸借人双方の事情を比較衡量した結果、建物の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われるものである上、賃貸人は、解約の申入れをするに当たって、無条件に明渡しを求め得るものと考えている場合も少なくないこと、右金員の提供を申し出る場合にも、その額を具体的に判断して申し出ることも困難であること、裁判所が相当とする額の金員の支払により正当事由が具備されるならばこれを提供する用意がある旨の申出も認められていること、立退料等の金員として相当な額が具体的に判明するのは建物明渡請求訴訟の審理を通じてであること、さらに、右金員によって建物の明渡しに伴う賃貸人及び貸借人双方の利害得失が実際に調整されるのは、賃貸人が右金員の提供を申し出た時ではなく、建物の明渡しと引換えに賃借人が右金員の支払を受ける時であることなどに鑑みれば、解約申入後にされた立退料等の金員の提供又は増額の申出であっても、これを当初の解約の申入れの正当事由を判断するに当たって参酌するのが合理的であるからである。
これを本件についてみると、記録によれば、被上告人は、昭和62年5月11日、第1審の第7回口頭弁論期日において、上告人Pとの間の本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同時に立退料100万円の支払を申し出ていたところ、原審の第1回口頭弁論期日において、裁判所が相当と認める範囲内で立退料を増額する用意があることを明らかにした上、平成元年7月21日、原審の最終口頭弁論期日において、立退料を300万円に増額する旨を申し出ていることが明らかである。そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人が昭和62年5月11日にした解約の申入れは、立退料300万円によって正当事由を具備するものと認めるのが相当であるから、本件賃貸借契約は、右解約申入れから6か月後の昭和62年11月11日の経過によって終了したものといわなければならない。従って、これと異なり、被上告人が平成元年7月21日に立退料の増額を申し出た時から6か月後の平成2年1月21日の経過をもって本件賃貸借契約が終了するとした原判決には、借家法1条ノ2にいう解約申入れの効力の解釈を誤った違法があるが、平成2年1月22日以後の建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を命じた原判決を変更して昭和62年11月12日以後の建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を命ずることは、いわゆる不利益変更禁止の原則により許されない。論旨は、結局、原判決の結論に影響しない部分の違法をいうに帰し、採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官香川保一、裁判官藤島昭、同中島敏次郎、同木崎良平
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2019.03.19
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
借家法7条の賃料増額請求の効力発生時期
(最高裁昭和45年6月4日判決 民集24巻6号482頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告理由について。
被上告人が上告人に対してなした本件建物部分の賃料を増額する旨の意思表示が借家法7条に基づく賃料増額の請求であることは、原判決(その引用する第1審判決を含む。以下同じ。)の判文に徴して明らかであるところ、それは形成権の行使であるから、賃料の増額を請求する旨の意思表示が上告人に到達した日に増額の効果が生ずるものと解するのが相当である。本件の場合、民法97条1項にいう「相手方ニ到達シタル時」とは、右の趣旨に解すべきである。従って、被上告人のなした賃料増額の意思表示が上告人に到達した日である昭和37年7月9日から月額20,000円に、同38年12月1日から月額22,000円に増額の効果を生じたとする原審の判断は、正当として是認できる。してみれば、原判決に所論の違法のないことは明らかであり、論旨は採用できない。
よって,民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大隅健一郎、裁判官入江俊郎、同松田二郎、同岩田誠
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2019.03.07
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
土地賃借人が該土地上に長男名義で保存登記をした建物を所有する場合と建物保護ニ関スル法律1条の対抗力の有無
(最高裁昭和41年4月27日判決 民集20巻4号870頁)
主 文
原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
被上告人(賃借人)は上告人(賃貸人)に対し、松山市子町丑番地宅地34坪2合3勺(実測111・1404㎡位)を、その地上に存する家屋番号同所第寅番卯、居宅木造セメント瓦葺2階建、下18坪3合1勺、上7坪2合9勺の建物を収去して明け渡せ。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人篠原三郎の上告理由について。
建物保護ニ関スル法律(以下建物保護法と略称する。)1条は、建物の所有を目的とする土地の賃借権により賃借人がその土地の上に登記した建物を所有するときは、土地の賃貸借につき登記がなくとも、これを以って第三者に対抗することができる旨を規定している。このように、賃借人が地上に登記した建物を所有することを以って土地賃借権の登記に代わる対抗事由としている所以のものは、当該土地の取引をなす者は、地上建物の登記名義により、その名義者が地上に建物を所有し得る土地賃借権を有することを推知し得るが故である。
従って、地上建物を所有する賃借権者は、自己の名義で登記した建物を有することにより、始めて右賃借権を第三者に対抗し得るものと解すべく、地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で建物の保存登記をしたような場合には、当該賃借権者はその賃借権を第三者に対抗することはできないものといわなければならない。何故なら、他人名義の建物の登記によっては、自己の建物の所有権さえ第三者に対抗できないものであり、自己の建物の所有権を対抗し得る登記あることを前提として、これを以って賃借権の登記に代えんとする建物保護法1条の法意に照し、かかる場合は、同法の保護を受けるに値しないからである。
原判決の確定した事実関係によれば、被上告人(賃借人)は、自らの意思により、長男甲に無断でその名義を以って建物の保存登記をしたものであるというのであって、たとえ右甲が被上告人(賃借人)と氏を同じくする未成年の長男であって、自己と共同で右建物を利用する関係にあり、また、その登記をした動機が原判示の如きものであったとしても、これを以って被上告人(賃借人)名義の保存登記とはいい得ないこと明らかであるから、被上告人(賃借人)が登記ある建物を有するものとして、右建物保護法により土地賃借権を第三者に対抗することは許されない。
元来登記制度は、物権変動の公示方法であり、またこれにより取引上の第三者の利益を保護せんとするものである。すなわち、取引上の第三者は登記簿の記載によりその権利者を推知するのが原則であるから、本件の如く甲名義の登記簿の記載によっては、到底被上告人(賃借人)が建物所有者であることを推知するに由ないのであって、かかる場合まで、被上告人(賃借人)名義の登記と同視して建物保護法による土地賃借権の対抗力を認めることは、取引上の第三者の利益を害するものとして、是認することはできない。また、登記が対抗力をもっためには、その登記が少くとも現在の実質上の権利状態と符号するものでなければならないのであり、実質上の権利者でない他人名義の登記は、実質上の権利と符合しないものであるから、無効の登記であって対抗力を生じない。そして本件事実関係においては、甲を名義人とする登記と真実の権利者である被上告人(賃借人)の登記とは、同一性を認められないのであるから、更正登記によりその瑕疵を治癒せしめることも許されないのである。叙上の理由によれば、本件において、被上告人(賃借人)は、甲名義の建物の保存登記を以って、建物保護法により自己の賃借権を上告人(賃貸人)に対抗することはできない。
なお原判決引用の判例(昭和15年7月11日大審院判決)は、相続人が地上建物について相続登記をしなくても、建物保護法1条の立法の精神から対抗力を与えられる旨判示しているのであるが、被相続人名義の登記が初めから無効の登記でなかった事案であり、しかも家督相続人の相続登記未了の場合であって、本件の如き初めから無効な登記の場合と事情を異にし、これを類推適用することは許されない。
然らば、本件上告は理由があり、原判決には建物保護法1条の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を、第1審判決は取消しを免れない。
原判決の確定した事実によれば、本件土地が上告人(賃貸人)の所有であり、被上告人(賃借人)がその地上に本件建物を所有し、本件土地を占有しているのであり、被上告人(賃借人)の主張する本件土地の賃借権は上告人(賃貸人)に対抗することができないことは前説示のとおりであるから、被上告人(賃借人)は上告人(賃貸人)に対し、本件土地を地上の本件建物を収去して明け渡すべき義務ある。
よって、民訴法408条1号、396条、386条、96条、899条に従い、裁判官横田喜三郎、同入江俊郎、同山田作之助、同長部謹吾、同柏原語六、同田中二郎の反対意見があるほか(略)、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官横田喜三郎、裁判官入江俊郎、同奥野健一、同山田作之助、同五鬼上堅磐、同横田正俊、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同城戸芳彦、同石田和外、同柏原語六、同田中二郎、同松田二郎、同岩田誠、同下村三郎
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2019.03.05
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
賃貸人の自己使用の必要がある一事によって借家法1条の2の「正当の事由」ありといえるか
(最高裁昭和29年1月22日判決 民集8巻1号207頁)。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告理由について。
借家法1条の2にいわゆる「正当の事由」とは、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照し妥当と認むへき理由をいうのであって所論のように賃貸人が自ら使用することを必要とするとの一事を以て、直ちに右「正当の事由」に該当するものと解することのできないことは既に当裁判所判例の示すところである。その他論旨は「最高裁における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和25年5月4日法律138号)1号乃至3号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官霜山精一、裁判官小谷勝重、同藤田八郎、同谷村唯一郎
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2019.03.04
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去・土地明渡を求めることが権利濫用となる場合において、土地占有を理由とする損害賠償を請求することが出来るとした判例
(最高裁昭和43年9月3日判決 民集22巻9号1767頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人吉川大二郎、同渡辺彌三次の上告理由一ないし四について。
原審が確定した事実によれば、上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)が本件(イ)の土地の所有権を取得した日以降、被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地の仮換地及び換地上に本件建物を所有して、同土地を占有している、というのである。そして、被上告人が上告人の従前同土地について有していた賃借権が対抗力を有しないことを理由として上告人に対し建物収去・土地明渡を請求することが権利の濫用として許されない結果として、上告人が建物収去・土地明渡を拒絶することができる立場にあるとしても、特段の事情のないかぎり、上告人が右の立場にあるということから直ちに、その土地占有が権原に基づく適法な占有となるものでないことはもちろん、その土地占有の違法性が阻却されるものでもないのである。従って、上告人が被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地を占有していることが被上告人に対する関係において不法行為の要件としての違法性をおびると考えることは、被上告人の本件建物収去・土地明渡請求が権利の濫用として許されないとしたこととなんら矛盾するものではないといわなければならない。されば、上告人が前記土地を占有することにより被上告人の使用を妨害し、被上告人に損害を蒙らせたことを理由に、上告人に対し、損害賠償を命じた原判決は正当である。叙上と異なる見地に立って原判決を攻撃する所論は採用できない。
よって、民訴法396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官五鬼上堅磐、同柏原語六は退官して、評議に加わらない。
最高裁裁判長裁判官横田正俊、裁判官田中二郎、同下村三郎
参照
【判例】*対抗力を具備していない借地人に対しての明渡請求が権利の濫用となるとされた事例
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2019.03.01
| 借地借家法・民法
最高裁判例
対抗力を具備しない土地賃借債権者に対し建物収去・土地明渡を求めることが権利の濫用となるとされた事例(最高裁昭和43年9月3日判決 民集22巻9号1817頁)
主 文
原判決中被上告人IJ物産株式会社に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。
理 由
上告代理人の上告理由第一点について。
原審は、 所論摘録のとおり、
(一) 上告人(原告)は、 被上告人(被告)甲が訴外乙から本件(イ)の土地を貸借し、同地上に建物を所有して被上告会社(被告会社)名義で洋家具製造販売業を営んでいることを知りながら右土地を買い受けたものであること、
(二) 上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)の各土地を買い受けるまでの間の事情及び買受の経過、
(三) 上告人の右買受価格と当時の時価との比較、
(四) 上告人が本訴を提起するに至るまでの経過、
(五) 本件(イ)の土地に対する被上告人甲側の必要事情ならびに明渡による損害、
(六) 上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)の土地の明渡を受けることによって獲得する利得、
(七) 本件の民事調停の経過等の事実関係を認定し、認定の事実を総合して考えると、「被控訴人(上告人)は、単に控訴人(被上告人)甲が本件の(イ)の土地を賃借し、同地上に建物を所有して営業している事実を知って本件土地を買受けたものであるに止らず、時価よりも著しく低廉な、しかも賃借権付評価で取得した土地につき、たまたま控訴人(被上告人)甲の賃借権が対抗力を欠如していることを発見し、これを奇貨として予想外の新たな利益を収めようとするものであり、その方法としては事前に何らの交渉もしないで抜打的に本訴を提起し、その反面に、相手方に予期しない不利益を与えるもの、即ち正当な賃借権に基き地上に建物を所有して平穏に営業し来った控訴人(被上告人)甲側の営業ならびに生活に多大の損失と脅威を与えることを意に介せず、敢えて彼我の利益の均衡を破壊して巨利を博する結果を招来せんとするものと認めなければならない」とし、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求は権利の濫用として許されないと判断したのである。そして、原判決挙示の証拠によれば、原審の前記事実の認定は是認することができ、当該事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求を権利の濫用にあたるとした原審の判断は正当である。原審の事実の認定及び法律上の判断に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
原審の認定した事実によれば、被上告人甲は、上告人に対抗しうる権原を有することなく、本件(イ)の土地の換地(換地処分前は仮換地)上に本件建物を所有し、同土地を占有しているが、被上告人IJ物産は、被上告人甲との使用貸借契約に基づいて、本件建物を借り受け、その全部を使用占有しているというのである。ところで、原判決は、上告人の被上告人甲に対する本件建物収去・土地明渡の請求が権利の濫用にあたり、同被上告人において建物収去・土地明渡の義務を負わない以上、被上告人IJ物産の本件建物の占有と上告人が本件(イ)の土地の仮換地及び換地を使用できないこととの間には相当因果関係を認めることができない、との理由により、被上告人IJ物産の土地の不法占有を理由とする上告人の損害賠償請求を棄却すべきものと判断したのである。しかし、本件建物の所有者である被上告人甲は、被上告人IJ物産の代表者であり、実質的には、本件建物の所有者である被上告人甲と占有者である被上告人IJ物産とが一体となって敷地である前記土地を不法に占有し、上告人の使用収益を妨害していることは、原判文から十分うかがうことができるのであり、このような特段の事情があるときは、被上告人IJ物産が本件建物を使用していることと上告人が土地を使用できないこととの間には相当因果関係が存するものと解するのが相当である(最高裁昭和29年(オ)第213号、同31年10月23日判決、民集10巻10号1275頁参照)。そうとすれば、これと見解を異にする原判決は法律の解釈を誤ったものというべく、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
同第三点について。
被上告人IJ物産がいわゆる個人会社であって、実質上、同会社の営業上の損失が被上告人甲個人に帰する関係にあることは原判文上これを窺知できなくはないから、本件土地の明渡による被上告人IJ物産の営業上の損失をもって、被上告人甲に対する明渡請求が権利の濫用になるかどうかの判断の資料とすることは違法とはいえない。また、本件土地の明渡による被上告人IJ物産の営業上の損失を判断の資料に供したからといって、当然に、不法行為上の損害賠償責任につき被上告人甲と同IJ物産とを一律に扱わなければならない筋合ではないから、原判決には理由そごの違法があるとはいえない。論旨は採用できない。
同第四点について。
原判決が被上告人Aに適法を土地占有権原があると判断した趣旨でないことは判文上明らかである。この点を正解しないで理由そごをいう論旨は採用できない。
よって、被上告人IJ物産の土地の不法占有を理由として上告人の請求する損害金の額等について更に審理を尽くさせるため、原判決中破上告人IJ物産に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻し、その余の部分につき本件上告を棄却することとし、民訴法407条1項、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官五鬼上堅磐、同柏原語六は退官して、評議に加わらない。
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2018.10.01
| 判例(借地)
最高裁判例
家屋の譲渡に伴う賃貸人の地位承継があった後は旧賃貸人は賃貸借を解除することができないとされた事例
(最高裁昭和39年8月28日判決 民集18巻7号1354頁)
主 文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人香田広一の上告理由第5点について。
所論は、被土告人はすでに昭和34年9月28日本件建物を訴外甲に売り渡してその所有権を失っているのであるから、右売渡後の同年10月5日に同年9月末日までの延滞賃料の催告をなし、右賃料不払に基づいて被上告人のなした本件賃貸借契約解除はその効力を有しない筈であるのに、原審が右解除を有効と判断して被上告人の請求を認容したのは、借家法の解釈を誤まったものであるという。
記録によれば、上告人が昭和35年2月16月午前10時の原審最終口頭弁論期日において、被上告人は昭和34年9月28日本件家屋を訴外甲に売り渡したからその実体的権利はすでに右訴外人に移転し被上告人はこれを失っている旨主張したのに対して、原審は右売却及びこれによる所有権喪失の有無につき被上告人に対して認否を求めないまま弁論を終結したことが明らかであり、原判決が、被上告人の本訴請求は賃貸借の消滅による賃貸物返還請求権に基づくものであるから仮に上告人主張のように被上告人が本件建物の所有権を他に譲渡してもこの事実は右請求権の行使を妨げる理由とはならないとして、被上告人の右請求を認容していることは、論旨のとおりである。
しかし、自己の所有建物を他に賃貸している者が賃貸借継続中に右建物を第三者に譲渡してその所有権を移転した場合には、特段の事情のないかぎり、借家法一条の規定により、賃貸人の地位もこれに伴って右第三者に移転するものと解すべきところ、本件においては、被上告人が上告人に対して自己所有の本件建物を賃貸したものであることが当事者間に争が由ないのであるから、本件賃貸借契約解除権行使の当時被上告人が本件建物を他に売り渡してその所有権を失っていた旨の所論主張につき、もし被上告人がこれを争わないのであれば、被上告人は上告人に対する関係において、右解除権行使当時すでに賃貸人たるの地位を失っていたことになるのであり、右契約解除はその効力を有しなかったものといわざるを得ない。然るに、原審が、叙上の点を顧慮することなく、上告人の所論主張につき、本件建物の所有権移転が本訴請求を妨げる理由にはならないとしてこれを排斥したのは、借家法1条の解釈を誤まったか、もしくは審理不尽の違法があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。
従って、上告代理人香田広一のその余の論旨及び上告代理人清水正雄の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、なお右の点について審理の必要があるものと認められるから、民訴407条1項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官奥野健一、裁判官山田作之助、同城戸芳彦、同石田和外
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2017.06.01
| 判例(借家)
最高裁判例
賃貸建物の新旧所有者が賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしても、賃貸人の地位が新所有者に移転しない特段の事情があるとはいえないとされた事例 (最高裁平成11年3月25日判決 裁判集民事192号607頁、判例時報1674号61頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人工藤舜達、同林太郎の上告理由第2点、同坂井芳雄の上告理由第1点、及び同原秋彦、同洞雉敏夫、同牧山嘉道、同若林昌博の上告理由第2点について
一 本件は、建物所有者から建物を賃借していた被上告人が、賃貸借契約を解除し右建物から退去したとして、右建物の信託による譲渡を受けた上告人に対し、保証金の名称で右建物所有者に交付していた敷金の返還を求めるものである。
二 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり(最高裁昭和35年(オ)第596号同39年8月28日判決・民集18巻7号1354頁、最高裁昭和43年(オ)第483号同44年7月17日判決・民集13巻8号1610頁参照)、右の場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保す旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。何故なら、右の新旧所有者間の合意に従った法律関係が生ずることを認めると、賃借人は、建物所有者との間で賃貸借契約を締結 したにもかかわらず、新旧所有者間の合意のみによって、建物所有権を有しない転貸人との間の転貸借契約における転借人と同様の地位に立たされることとな り、旧所有者がその責めに帰すべき事由によって右建物を使用管理する等の権原を失い、右建物を賃借人に賃貸することができなくなった場合には、その地位を 失うに至ることもあり得るなど、不測の損害を被るおそれがあるからである。もっとも、新所有者のみが敷金返還債務を履行すべきものとすると、新所有者が無 資力となった場合などには、賃借人が不利益を被ることになりかねないが、右のような場合に旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは、右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。
三 これを本件についてみるに、原審が適法に確定したところによれば、
(一)被上告人は、本件ビル(鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付10階建事務所店舗) を所有していたアーバネット株式会社(以下「アーバネット」という。)から、本件ビルのうちの6階から8階部分(以下「本件建物部分」という。)を賃借し (以下、本件建物部分の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)、アーバネットに対して敷金の性質を有する本件保証金を交付した、
(二)本件ビルにつき、平成2年3月27日、(1)売主をアーバネット、買主を中里三男外38名(以下「持分権者ら」という。)とする売買契約、
(2)譲渡人を持分権者ら、 譲受人を上告人とする信託譲渡契約、
(3)賃貸人を上告人、賃借人を芙蓉総合リース株式会社(以下「芙蓉総合」という。)とする賃貸借契約、
(4)賃貸人 を芙蓉総合、賃借人をアーバネットとする賃貸借契約、がそれぞれ締結されたが、右の売買契約及び信託譲渡契約の締結に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をアーバネットに留保する旨合意された、
(三)被上告人は、平成3年9月12日にアーバネットが破産宣告を受けるまで、右(二)の売買契約等が締結 されたことを知らず、アーバネットに対して賃料を支払い、この間、アーバネット以外の者が被上告人に対して本件賃貸借契約における賃貸人としての権利を主 張したことはなかった、
(四)被上告人は、右(二)の売買契約等が締結されたことを知った後、本件賃貸借契約における賃貸人の地位が上告人に移転したと主張したが、上告人がこれを認めなかったことから、平成4年9月16日、上告人に対し、上告人が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を否定するので信頼関係が破壊されたとして、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、その後、本件建物部分から退去した、というのであるが、前記説示のとおり、右(二)の合 意をもって直ちに前記特段の事情があるものと解することはできない。そして、他に前記特段の事情のあることがうかがわれない本件においては、本件賃貸借契 約における賃貸人の地位は、本件ビルの所有権の移転に伴ってアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したものと解すべきである。以上によれば、被上 告人の上告人に対する本件保証金返還請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の各判例は、案を異にし本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用できない。
よって、裁判官藤井正雄の反対意見(略)があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大出峻郎、裁判官小野幹雄、同遠藤光男、同井嶋一友、同藤井正雄
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2017.05.30
| 判例(借家)
最高裁判例
土地賃貸借の合意解除は地上建物の賃借人に対抗できるとされた事例
(最高裁 昭和38年2月21日判決 民集17巻1号219頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松井久市の上告理由第1点について。
しかし、原判決の確定した事実によれば、本件建物は、杉皮葺板壁平屋建1棟建坪43坪8合のものであって、訴外丁の建築したものを、昭和30年3月被上告人において賃借し、爾来被上告人がこれに居住し、家具製造業を営んで現在に至っているというのであるから、原判決がこれを借地、借家法にいう建物に当ると判示したのは正当である。
所論は、原審の適法にした事実認定を非難し、判示に反する事実を前提として原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
同第2点について。
しかし、原判決が、本件借地契約は、借地法9条にいう一時使用のためのものではなく、借地法の適用を受ける建物所有のために設定されたものであること、所論調停条項は、所論の如き趣旨のものではなくて、上告人と訴外丁とが、右の本件借地契約を合意解除してこれを消滅せしめるとの趣旨であるとした判断は、挙示の証拠関係及び事実関係に徴し、首肯できなくはない。
ところで、本件借地契約は、右の如く、調停により地主たる上告人と借地人たる訴外丁との合意によって解除され、消滅に至ったものではあるが、原判決によれば、前叙の如く、右丁は、右借地の上に建物を所有しており、昭和30年3月からは、被上告人がこれを賃借して同建物に居住し、家具製造業を営んで今日に至っているというのであるから、かかる場合においては、たとえ上告人と訴外丁との間で、右借地契約を合意解除し、これを消滅せしめても、特段の事情がない限りは、上告人は、右合意解除の効果を、被上告人に対抗し得ないものと解するのが相当である。
なぜなら、 上告人と被上告人との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによって勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもって賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもって第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法398条、538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和9年3月7日大審院判決、民集13巻278頁、昭和37年2月1日当裁判所判決、最高裁民事裁判集58巻441頁各参照)。
されば、原審判断は、結局において正当であり、論旨は、ひつきょう原審が適法にした事実認定を非難するか、独自の見解をもって原判決に所論違法ある如く主張するに帰するから、採るを得ない。
なお、論旨後段の、上告人が前記和解において、本件建物を丁所有の他の建物とともに42万円で買い受けることにしたのは、便宜上移転料に代え、取毀し材料として買受けたものである云々の主張は、原審で主張判断を経ていない事実であるから、これをもってする論旨は、採るを得ない。
同第3点について。
所論事実は、原審で主張されていないから、原審がそれにつき判断しなかったのは当然のことであり、論旨は採るを得ない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官高木常七、裁判官入江俊郎、裁判官下飯坂潤夫、裁判官斎藤朔郎
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2016.08.30
| 借地借家法・民法
最高裁判例
宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流、下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備を当該宅地の給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、当該給排水設備を使用することができる。
(最高裁判所第三小法廷 平成14年10月15日判決、 民集 第56巻8号1791頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人藤原正廣、同児嶋香里の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人らは、本件造成住宅地内の宅地である本件各土地を所有している。
本件造成住宅地に接する県道には、水道事業者である小野市が水を供給するため管理する配水管と本件造成住宅地内の下水を土地改良区が管理する水路まで排出するための排水管が敷設されている。本件造成住宅地内の通路である本件道路は小野市の所有である。本件各土地から県道までは、相当な距離があり、両者は本件道路及び他人所有の造成区画により隔てられている。
(2) 上告人は、本件道路の下に、県道下にある上記配水管及び排水管と本件造成住宅地内にある各造成区画の給排水設備とを接続するための本件給排水管施設を設置した。
(3) 本件給排水管施設は、現在上告人が所有管理し、他の造成区画の給排水のため現に使用されている。
2 本件は、被上告人らが、上告人に対し、本件各土地の給排水のために、本件給排水管施設の使用の承諾を求める事案である。
3 【要旨】宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、民法220条及び221条の類推適用により、当該給排水設備を使用することができるものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
民法220条は、土地の所有者が、浸水地を乾かし、又は余水を排出することは、当該土地を利用する上で基本的な利益に属することから、高地の所有者にこのような目的による低地での通水を認めたものである。同法221条は、高地又は低地の所有者が通水設備を設置した場合に、土地の所有者に当該設備を使用する権利を認めた。その趣旨とするところは、土地の所有者が既存の通水設備を使用することができるのであれば、新たに設備を設けるための無益な費用の支出を避けることができるし、その使用を認めたとしても設備を設置した者には特に不利益がないということにあるものと解される。ところで、現代の社会生活において、いわゆるライフラインである水道により給水を受けることは、衛生的で快適な居住環境を確保する上で不可欠な利益に属するものであり、また、下水の適切な排出が求められる現代社会においては、適切な排水設備がある場合には、相隣関係にある土地の高低差あるいは排水設備の所有者が相隣地の所有者であるか否かにかかわらず、これを使用することが合理的である。したがって、宅地の所有者が、他の土地を経由しなけ れば、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、宅地所 有者に当該給排水設備の使用を認めるのが相当であり、二重の費用の支出を避けることができ有益である。そして、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、当該給排水設備の所有者には特に不利益がないし、宅地の所有者に対し別途設備の設置及び保存の費用の分担を求めることができる(民法221条2項)とすれば、当該給排水設備の所有者にも便宜であるといえる。
4 これを本件について見ると、本件各土地と県道との位置関係、本件給排水管施設が設置された経緯、その現況等前記の事実関係の下においては、被上告人らは、他の土地を経由しなければ、本件各土地に前記配水管から給水を受け、本件各土地の下水を前記水路まで排出することができないのであり、その給排水のためには本件給排水管施設を使用することが最も合理的であるというべきである。そして、本件において、被上告人らが本件給排水管施設を使用することにより現にされている給排水に支障を生ずるとは認められず、他に本件給排水管施設に予定された効用を著しく害するような事情をうかがうこともできない。そうすると、上告人は、被上告人らによる本件給排水管施設の使用を受忍すべきである。
5 以上と同旨の見解に基づき、上告人が被上告人らに対して本件給排水管施設の使用を承諾すべき旨を命じた原審の判断は、本件給排水管施設の使用を受忍すべき義務があることを確認する趣旨のものとして、正当として是認することができる。 原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田豊三、 裁判官金谷利廣、 裁判官奥田昌道、 裁判官濱 田邦夫)
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2016.08.26
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において期間を3年と定めた場合、存続期間が30年になるとされた事例
(最高裁大法廷昭和44年11月26日判決 民集23巻11号2221頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松本茂三郎の上告理由第1点ないし第3点及び第5点について。
原判決挙示の証拠関係に照らせば、所論の点に関する原審の認定判断は肯認することができる。所論は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第4点について。
借地権の存続期間に関しては、借地法2条1項本文が、石造、土造、煉瓦造またはこれに類する堅固の建物の所有を目的とするものについては60年、その他の建物の所有を目的とするものについては30年とする旨規定し、また、同条2項が、契約をもって堅固の建物について30年以上、その他の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、前項の規定にかかわらず、借地権はその期間の満了によって消滅する旨規定している。
思うに、その趣旨は、借地権者を保護するため、法は、借地権の存続期間を堅固の建物については60年、その他の建物については30年と法定するとともに、当事者が、前者につい30年以上、後者について20年以上の存続期間を定めた場合に限り、前記法定の期間にかかわらず、右約定の期間をもって有効なものと認めたものと解するのが、借地権者を保護することを建前とした前記法条の趣旨に照らし、相当である。従って、当事者が、右2項所定の期間より短い存続期間を定めたときは、その存続期間の約定は、同法2条の規定に反する契約条件にして借地権者に不利なものに該当し、同法11条により、これを定めなかったものとみなされ、当該借地権の存続期間は、右2条1項本文所定の法定期間によって律せられることになる。
これを本件につ いてみるに、原審の適法に認定したところによれば、所論転貸借は、契約において期間を3年と定めていたというのであるから、右に説示したところにより、右転貸借の存続期間は、契約の時から30年と解するほかなく、これと同趣旨の原審の判断は正当である。論旨は、右と異なる見地に立って原判決を非難するものであって、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官田中二郎、同大隅健一郎の反対意見(略)があるほか、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官石田和外、裁判官入江俊郎、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同城戸芳彦、同田中二郎、同松田二郎、同岩田誠、同下村三郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎、同松本正雄、同飯村義美、同村上朝一、同関根小郷
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2016.08.23
| 借地借家法・民法
最高裁判例
賃借人が公租公課額未満と知りつつ支払う賃料と借地法12条2項の相当賃料
(最高裁 平成8年7月12日判決 民集50巻7号1876頁)
賃借人が公租公課の額を下回ることを知りながら支払う賃料と借地法12条2項の相当賃料
主 文
原判決中上告人らの建物収去土地明渡請求及び平成2年3月2日以降月50万円の割合による金員の支払請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
上告人らのその余の上告を却下する。
前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人山内良治の上告理由について
一 本件は、第一審判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を被上告人に賃貸している上告人らが、賃料を月額12万円に増額する旨の請求をした後に被上告人が支払い続けた賃料月額6万円は、被上告人が自ら相当と認める額ではなく、公租公課の額にも満たないものであるから、被上告人には賃 料債務の不履行があり、これに基づき賃貸借契約が解除されたと主張して、被上告人に対し、同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件 土地を明け渡し、右解除前の賃料及び解除から明渡し済みまでの賃料相当損害金を支払うことを求めるものである。
二 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人らの父である甲は、昭和40年ころ、その所有する本件土地を被上告人の父である乙に賃貸し、同人は、本件土地上に本件建物を建築した。甲が昭和42年10月31日に死亡したため、上告人らは、それぞれ本件土地の持分4分の1を相続により取得し、賃貸人の地位を承継した。その後、乙が死亡し、被上 告人が本件建物の所有権を相続により取得し、賃借人の地位を承継した。
2 本件土地の賃料は,昭和55年8月に月額6万円(年額72万円)に増額されて以来据え置かれてきた。平成元年11月1日現在の本件土地の公租公課の額は年額74万1248円であり、賃料額を上回っていた。
3 上告人らは,平成元年10月18日、被上告人に対し、本件土地の賃料を同年11月1日以降月額12万円に増額する旨の請求をした。
4 昭和55年8月以降本件土地の地価が著しく高騰し、公租公課も増額されたから、平成元年11月1日の時点において従前の賃料額は不相当になっており,当時の本件土地の適正な賃料の額は、月額12万円である。
5 被上告人は、本件賃料増額請求の後も、賃料として月額6万円の支払を続けている。
6 上告人らは、平成2年2月22日、被上告人に対し、1週間以内に増額賃料の支払がない場合には賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、被上告人は、右の期間内に催告に係る賃料の支払をしなかった。
三 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人らの賃料支払請求を平成元年11月1日から同2年3月1日まで月額6万円の割合による金員(合計24万1935円)の支払を求める限度で認容し、上告人らのその余の請求をすべて棄却すべきものとした。
1 本件賃料増額請求は、全額につきその効力を生じたから、本件土地の賃料は、平成元年11月1日以降月額12万円に増額されたが、被上告人は、賃料として月額6万円を支払ったのみである。従って、平成元年11月1日から同2年3月1日まで月額12万円の割合による賃料の支払を求める請求は、未払額に相当する月額6万円の限度で理由がある。
2 借地法12条2項にいう「相当ト認ムル」 とは賃借人において主観的に相当と認めるとの趣旨であると解するのが相当であるが、賃借人としては従前の賃料額を支払っている限り債務不履行責任を問われることはないとするのが右法条の趣旨であり、被上告人が従前の賃料額を支払う限り、主観的には相当と認める賃料を支払ったものとして債務不履行の責任を問われることはない。従って、本件解除の意思表示は解除原因を欠き無効であるから、賃貸借契約が解除されたことを前提とする建物収去土地明渡請求及び平成2 年3月2日以降の賃料相当損害金の支払請求は、いずれも理由がない。
四 しかし、原審の右三の2の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
1(一) 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときには、従前の賃料額と同額を支払っても、借地法12条2項にいう相当と認める地代又は借賃を支払ったことにはならないと解すべきであ る。
(二) のみならず、右の場合において、賃借人が主観的に相当と認める額の支払をしたとしても、常に債務の本旨に従った履行をしたことになるわけではない。すなわち、賃借人の支払額が賃貸人の負担すべき目的物の公租公課の額を下回っていても、賃借人がこのことを知らなかったときには、公租公課の額を下回る額を支払ったという一事をもって債務の本旨に従った履行でなかったというこ とはできないが、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。何故なら、借地法12条2項は、賃料増額の裁判の確定前には適正賃料の額が不分明であることから生じる危険から賃借人を免れさせるとともに、裁判確定後には不足額に年1割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の衡平を図った規定であるところ、有償の双務契約である賃貸借契約においては、特段の事情のない限り、公租公課の額を下回る額が賃料の額として相当でないことは明らかであるから、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っている場合にまで、その賃料の支払を債務の本旨に従った履行に当たるということはできないからである。
2 本件についてこれを見るに、上告人らは、原審において、被上告人はその支払額である月額6万円を主観的に相当とは認めていなかったと主張し、また、原審は、本件賃料増額請求に係る増額の始期である平成元年11月1日現在の本件土地の公租公課の額は年額74万1248円であり、被上告人はその額を下回る月額6万円(年額72万円)の支払を続けた旨の事実を認定したのであるから、原審が、被上告人が自らの支払額を主観的に相当と認めていたか否か及びこれが公租公課の額を下回ることを知っていたか否かについての事実を確定することなく、被上告人は従前の賃料額を支払う限り債務不履行責任を問われることはないと判断した点には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼす。この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決中建物収去土地明渡請求及び平成2年3月2日以降月50万円の割合による金員の支払請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして、右部分については、被上告人が自らの支払額を主観的に相当と認めていたか否か、また、これが公租公課の額を下回ることを知っていたか否かについての審理を尽くさせる必要があるので(仮に被上告人に賃料債務の不履行があったとされる場合においても、右不履行について信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるときには解除の意思表示は効力を生じないと解されるから、この場合においては、右信頼関係の破壊の点についても審理を尽くさせる必要がある。)、原審に差し戻す。
五 なお、上告人らは、原判決中賃料支払請求に係る部分について、上告理由を記載した書面を提出しない。
よって、民訴法407条1項、399条ノ3、96条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官河合伸一、裁判官大西勝也、裁判官根岸重治、裁判官福田博
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2016.08.09
| 借地借家法・民法・判例
最高裁判例
借家人の保証人は借家契約の更新後も保証人としての責任を免れないとされた事例
(最判平成9年11月13日裁判集民事186号105頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人遠藤實の上告理由について
一 本件は、建物賃借人のために連帯保証人となった上告人が、賃貸人である被上告人に対し、被上告人と賃借人との合意により建物賃貸借契約を更新した後に生じた未払賃料等についての連帯保証債務が存在しないことの確認を求めている事案である。
二 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、昭和60年5月31日、上告人の実弟であるαに対し、第1審判決添付物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)を、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額26万円と定めて賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)その際、上告人は、被上告人に対し、αが本件賃貸借契約に基づき被上告人に対して負担する一切の債務について、連帯して保証する旨約した(以下「本件保証契約」という。)
2 本件賃貸借契約締結の際に作成された契約書においては、賃貸借期間の定めに付加して「但し、必要あれば当事者合議の上、本契約を更新することも出来 る。」と規定されていたところ、被上告人としては、右賃貸借期間を家賃の更新期間と考えており、右期間満了後も賃貸借関係を継続できることを予定していた。他方、上告人は、本件保証契約締結当時、右規定から本件賃貸借契約が更新されることを十分予測することができたにもかかわらず、その当時αが食品流通 関係の仕事をしていて高額の収入があると認識していたことから、本件保証契約締結後も同人の支払能力について心配しておらず、そのため本件賃貸借の更新についても無関心であった。
3 αと被上告人は、本件賃貸借につき、
(一)昭和62年6月ころ、期間を同年6月1日から2年間と定めて更新する旨合意し、
(二)平成元年8月29日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額31万円と定めて更新する旨合意し、
(三)平成3年7月20日、期間を同年6月1日から2年間、賃料を月額33万円と定めて更新する旨合意した。
もっとも、右各合意更新の際に作成された賃貸借契約書中の連帯保証人欄には「前回に同じ」と記載されているのみで、上告人による署名押印がされていないし、右合意更新の際に被上告人から上告人に対して保証意思の確認の問い合わせがされたことはなく、上告人がαに対して引き続き連帯保証人となることを明示して了承したこともな かった。
4 αは、前記3(二)の合意更新による期間中の賃料合計75万円及び前記3(三)の合意更新による期間中の賃料等合計759万円を支払わなかったところ、被上告人は、平成4年7月中旬ころ、αに対し、本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨通知するとともに、平成5年6月8日ころ、上告人に対し、賃料不払が継続している旨を連絡した。αは、平成5年6月18日、被上告人に対し、本件マンションを明け渡した。
三 被上告人は、上告人に対し、本件保証契約に基づき、前記4の未払賃料等合計834万円及び平成5年6月1日から同月18日までの賃料相当損害金19万8000円についての連帯保証債務履行請求権を有すると主張しており、これに対し、上告人は、本件保証契約の効力が本件賃貸借の合意更新後に生じた未払賃料債務等には及ばない、仮にそうでないとしても、被上告人による右保証債務の履行請求が信義則に反すると主張している。建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の 履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。
四 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前記特段の事情はうかがわれないから、本件保証契約の効力は、更新後の賃貸借にも及ぶと解すべきであり、被上告人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認めるべき事情もない本件においては、上告人は、本件賃貸借契約につき合意により更新された後の賃貸借から生じたαの被上告人に対する賃料債務等についても、保証の責めを免れないものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を論難するものであって、採用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官小野幹雄、裁判官遠藤光男、裁判官井嶋一友、裁判官藤井正雄
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2016.08.06
| 借地借家法・民法
最高裁判例
共同相続不動産から生ずる賃料債権の帰属と後の遺産分割の効力
(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)
主 文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人田中英一、同永井一弘の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)甲は、平成8年10月13日、死亡した。その法定相続人は、妻である被上告人のほか、子である上告人、乙、丙及び丁(以下、この4名を「上告人ら」という。)である。
(2)甲の遺産には、第1審判決別紙遺産目録1(1)~(17)記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)がある。
(3) 被上告人及び上告人らは、本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(以下「本件口座」という。)を開設し、本件各不動産の賃借人らに賃料を本件口座に振り込ませ、また、 その管理費等を本件口座から支出してきた。
(4)大阪高等裁判所は、平成12年2月 2日、同裁判所平成11年(ラ)第687号遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件において、本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以 下「本件遺産分割決定」という。)をし、本件遺産分割決定は、翌3日、確定した。
(5) 本件口座の残金の清算方法について、被上告人と上告人らとの間に紛争が生じ、被上告人は、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼっ て、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し、上告人らは、本件各不動産か ら生じた賃料債権は、本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し、本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張した。
(6)被上告人と上告人らは、本件口座の残金につき、各自が取得することに争いのない金額の範囲で分配し、争いのある金員を上告人が保管し(以下、この金員を「本件保管金」という。)、の帰属を訴訟で確定することを合意した。
2 本件は、被上告人が、上告人に対し、被上告人主張の計算方法によれば、本件保管金は被上告人の取得すべきものであると主張して、上記合意に基づき、本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
3 原審は、上記事実関係の下で、次のとおり判断し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
4 しかし、原審の上記判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
従って、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、被上告人が本件保管金を取得すべきであると判断して、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻す。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官才口千晴、裁判官横尾和子、裁判官甲斐中辰夫、裁判官泉徳治、裁判官島田仁郎
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2016.08.04
| 借地借家法・民法
最高裁判例
借地契約における増改築禁止の特約と解除権行使の許否
(最高裁 昭和41年4月21日判決 民集21巻4号720頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松井邦夫の上告理由1、2について。
一般に、建物所有を目的とする土地の賃貸借契約中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで賃借地内の建物を増改築するときは、賃貸人は催告を要しないで、賃貸借契約を解除することができる旨の特約(以下で単に建物増改築禁止の特約という。)があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合においても、この増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が前記特約に基づき解除権を行使することは、信義誠実の原則上、許されない。
以上の見地に立って、本件を見るに、原判決の認定するところによれば、第1審原告(脱退)橋本ぢんは被上告人に対し建物所有の目的のため土地を賃貸し、両者間に建物増改築禁止の特約が存在し、被上告人が該地上に建設所有する本件建物(2階建住宅)は昭和7年の建築にかかり、従来被上告人の家族のみの居住の用に供していたところ、今回被上告人はその一部の根太および2本の柱を取りかえて本件建物の2階部分(6坪)を拡張して総2階造り(14坪)にし、2階居宅をいずれも壁で仕切った独立室とし、各室ごとに入口および押入を設置し、電気計量器を取り付けたうえ、新たに2階に炊事場、便所を設け、かつ、2階より 直接外部への出入口としての階段を附設し、結局2階の居室全部をアパートとして他人に賃貸するように改造したが、住宅用普通建物であることは前後同一であり、建物の同一性をそこなわないというのであって、右事実は挙示の証拠に照らし、肯認できる。
そして、右の事実関係のもとでは、借地人たる被上告人のした本件建物の増改築は、その土地の通常の利用上相当というべきであり、いまだもって賃貸人たる第1審原告(脱退)橋本ぢんの地位に著しい影響を及ぼさないため、賃貸借における信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事由が主張立証されたものというべく、従って、前記無断増改築禁止の特約違反を理由とする第1審原告(脱退)橋本ぢんの解除権の行使はその効力がないものというべきである。
しからば、賃貸人たる第1審原告(脱退)橋本ぢんが前記特約に基づいてした解除権の行使の効果を認めなかった原審の判断は、結局正当であり、論旨は、畢竟失当として排斥を免れない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所裁判官松田二郎、裁判官入江俊郎、裁判官長部謹吾、裁判官 岩田誠
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2016.08.02
| 借地借家法・民法
最高裁判例
宅地賃貸借契約の法定更新に際し賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しないとした事例
(最高裁昭和51年10月1日判決 裁判集民事119号9頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人小林宏也、同本多藤男、同長谷川武弘の上告理由第1点について
原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人の所論所為をもって、未だ本件賃貸借契約の継続を不可能又は著しく困難ならしめるものとは認めるに足りないとした原審の判断は、正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第2点について
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、独自の見解を主張するものであって、採用できない。
同第3点及び第4点について
記録及び原判決事実摘示に照らし、所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用できない。
よって、民訴法410条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大塚喜一郎、裁判官岡原昌男、裁判官吉田豊、裁判官本林譲、裁判官栗本一夫
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2016.07.29
| 更新料(借地)判例
最高裁判例
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効の起算点
(最高裁 昭和62年10月8日 判決 民集41巻7号1445頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人菅生浩一云同葛原忠知、同川崎全司、同丸山恵司、同甲斐直也、同川本隆司、同藤田整治の上告理由第1点について
所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。
同第2点について
賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用さ れ、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)と の間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となったものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、
(1)本件(一)土地の所有者である末正盛治は、大正初年ころ、六ノ坪合資会社(以下「訴外会社」とい う。)を設立し、同社をして右土地を含む自己所有不動産の管理をさせてきたものであるところ、上告人は、昭和34年6月22日、相続により、本件(一)土地の所有権を取得した、
(2)中村国義は、前賃借人の賃借期間を引き継いで、昭和11年7月29日、訴外会社から本件(一)土地を昭和15年9月30日までの約定で賃借し、同地上に3戸1棟の建物(家屋番号22番、22番の2及び22番の3)を所有していたものであるところ、被上告人中村慶一は、昭和20年3月17日、家督相続により中村国義の権利義務を承継した(右賃貸借契約は昭和15年9月30日及び同35年9月30日にそれぞれ法定更新された。)、
(3)被上告人伊藤染工株式会社(以下「被上告人伊藤染工」という。)は、昭和25年12月7日、被上告人中村から前記22番の3の建物を譲り受けるとと もに、本件(一)土地のうち右建物の敷地に当たる本件(四)土地を訴外会社の承諾を受けることなく転借し、同日以降これを使用収益している、
(4)訴外会 社は、昭和51年7月16日到達の書面をもって被上告人中村に対し、右無断転貸を理由として本件(一)土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、と いうのであり、また、被上告人伊藤染工及び同濱田を除くその余の被上告人らが、本訴において、右無断転貸を理由とする本件(一)土地の賃貸借契約の解除権の消滅時効を援用したことは訴訟上明らかである。
以上の事実関係のもとにおいては、右の解除権は、被上告人伊藤染工が本件(四)土地の使用収益を開始した昭和25年12月7日から10年後の昭和35年12月7日の経過とともに時効により消滅したものというべきであるから、上告人主張に係る訴外会社の被上告人中村に対する前記賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することがで き、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用できない。
同第3点について
原判決が上告人の被上告人伊藤染工及び同濱田に対する請求に関して所論指摘の判示をしているものでないことは、その説示に照らし明らかであるから、原判決に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用できない。
同第4点について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人伊藤染工、訴外会社ひいて上告人に対抗できる転借権を時効により取得したものということができるから、これと同旨の原審の判断は、結論において是認できる。論旨は、畢竟、判決の結論に影響しない事由について原判決の違法をいうものにすぎず、採用でき ない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官佐藤哲郎、裁判官角田禮次郎、裁判官高島益郎、裁判官大内恒夫、裁判官四ツ谷巖
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2016.07.27
| 時効
最高裁判例
賃借人が個人企業を会社組織に改め賃貸人の承諾なく同会社に賃借家屋を使用させた場合に民法612条の解除権が発生しないとされた事例
(最高裁 昭和39年11月19日判決 民集18巻9号1900頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人樫本信雄、同浜本恒哉の上告理由第1点について。
賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合であっても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人に民法612条2項による解除権は発生しないものと解するを相当とする(昭和25年(オ)第140号、同28年9月25日判決、民 集7巻9号979頁、昭和28年(オ)第1146号、同30年9月22日判決、民集9巻10号1294頁参照)。
ところで、本件について原審の確定した事実によれば、被上告人は、昭和22年7月の本件家屋の賃借当初から、階下約7坪の店舗でP商会という名称でミシンの個人営業をしていたが、税金対策のため、昭和24年頃株式会社Pミシン商会という商号の会社組織にし、翌25年頃にはこれを解散してSミシン工業株式会社を組織し、昭和30年頃Uミシン工業株式会社と商号を変更したものであって、各会社の株主は被上告人の家族、親族の名を借りたに過ぎず、実際の出資は凡て被上告人がしたものであり、右各会社の実権は凡て被上告人が掌握し、その営業は被上告人の個人企業時代と実質的に何らの変更がなく、その従業員、店舗の使用状況も同一であり、また、被上告人は右Uミシン工業株式会社から転借料の支払を受けたことなく、かえって被上告人は上告人甲らの先代乙に対し本件家屋の賃料を同社名義の小切手で支払っており、被上告人は同会社を自己と別個独立のものと意識していなかったというのである。
されば、個人である被上告人が本件賃借家屋を個人企業と実質を同じくする右Uミシン工業株式会社に使用させたからといって、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、上告人らが主張するような民法612条2項による解除権は発生しないことに帰着するとした原審の判断は正当である。右と異なる見解に立って原判決を非難する論旨は、採用できない。
同第2点について。
上告人甲らの先代丙がその代理人たる丁を通じて本件賃料の増額をしたことにより、右丙は被上告人の本件家屋増築を暗黙に承諾したものである旨の原審の認定判断は、その挙示する証拠関係に照らして首肯できないことはなく、その判断の過程に所論違法は認められない。所論は、畢竟、原審の認定と相容れない事実を前提として、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
よって、民訴401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官長部謹吾、裁判官入江俊郎、裁判官松田二郎、裁判官岩田誠
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2016.07.25
| 譲渡・転貸借
最高裁判例
鉄道高架下施設の一部分の賃貸借契約に借家法の適用があるとされた事例
(最高裁 平成4年2月6日判決 裁判集民事164号45頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人深田源次の上告理由について
原審は、
(一) 本件施設物は、鉄道高架下施設であるが、土地に定着し、周壁を有し、道高架を屋根としており、永続して営業の用に供することが可能なものであるから、借家法にいう建物に当たる、
(二) 本件店舗は、本件施設物の一部を区切ったものであるが、隣の部分とはブロックにベニヤを張った壁によって客観的に区別されていて、独立的、排他的な支配が可能であるから、借家法にいう建物にあたる、
(三) 本件店舗での営業に関する亡大井慶寿と被上告人との間の本件契約は、経営委託契約ではなく、本件店舗及び店舗内備品の賃貸借契約であって、借家法の適用がある、
(四) 本件契約は、期間満了後、期間の定め のない賃貸借として更新されている、
(五) 亡慶寿の相続人として同人の地位を継承した上告人がした本件契約の解約申入れに正当事由はない、として、上告 人の本件請求を棄却しているが、原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
諭旨は、 畢竟、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないで若しくは独自の見解に立ってこれを論難するものにすぎず、採 用できない。
よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大内恒夫、裁判官大堀誠一、裁判官橋元四郎平、裁判官味村治
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2016.07.21
| 借地借家法・民法
最高裁判例
建物買取請求権行使によって成立する売買と民法577条の適否と価額
(最高裁 昭和39年2月4日 判決 民集18巻2号233頁)
ア 借地法10条に基づく建物買取請求権行使によって成立する売買と民法577条の適否
イ 同建物に抵当権が設定されている場合と同建物の時価
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人名尾良孝の論旨1について。
抵当不動産の買主がその売主に対し滌除権を取得するには、その所有権を取得したことを以って足るのであって、右所有権取得につき登記を経ることを要件としないものと解するを相当とする。従って、被上告人は、原判示の如く、借地法に基づく上告人の買取請求の意思表示によって本件抵当建物の所有権を取得した以上、未だその取得につき登記を経て居らなくても、売主である上告人に対し滌除権を有するものとなすべきである。被上告人が本件抵当建物につき滌除権を有しないとする上告人の主張は、独自の見解であって、正当でない。
又、本件において、 上告人が所論買取請求権の行使をしたのは、昭和35年6月24日の原審口頭弁論においてであって、この意思表示により、直ちに、上告人と被上告人との間 に、上告人を売主、被上告人を買主とする本件抵当建物の売買が成立し、同時に、その所有権が被上告人に移転したものとなすべきである(大審院昭和6年 (オ)第1462号同7年1月26日判決、民集11巻169頁、同院昭和13年(オ)第1780号同14年8月24日判決、民集18巻877頁、当裁判所 昭和28年(オ)第759号、同30年4月5日判決、民集9巻439頁参照)から、右口頭弁論の時において既に、実体的に、被上告人は、右抵当建物につ き、所有権と共に滌除権をも取得し了ったものであって、これを訴訟において予備的請求原因として主張したからといって、右権利取得に何等の消長をもきたさないものである。右口頭弁論の時以後においては、何時でも、売主より民法577条但書の滌除の催告をなすことがあり得べく、また、買主において売主の代金支払請求に対し滌除を前提として同条本文の代金支払拒絶を主張することもあり得るとするに何等妨げがない。従って、予備的請求原因として、買取請求権行使 の効果が主張せられる場合に、民法577条の適用は考えられないとすることも亦、独自の見解であって、失当である。
論旨は、結局、すべて、前提において既に失当であって、採るを得ない。
同2について。
借地法に基づく買取請求権行使によって成立する売買の代価は、その行使当時における建物の時価により客観的に定まるものであって、所論の如くに、買主が主観的に算定して定めるものではない。又、論旨が引換給付判決として主文に売買代金額が掲記せられない限り右時価は定まらないとするは、独自の見解に過ぎない。
従って、論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであって、採るを得ない。
同3について。
論旨は、滌除の制度を以って、不動産の時価が抵当債権を完済し得ない場合にのみ効果を発揮するものであるとし、或は抵当債権額が不動産の時価より少い場合には、その差額についてのみ売主に留置権及び同時履行の抗弁が生ずるものであるとするけれども、いずれも独自の見解に過ぎない。論旨は、結局、これ等独自の見解を前提として、原審が借地法10条に基づく本件買取請求による売買に民法577条を適用すべきものとしたことを非難するにつきる。
論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであって、採るを得ない。
同4について。
原審が所論建物の時価を530,625円と算定判示したことは、所論の如くに、無意味不必要ではない。そもそも、借地法10条による買取請求の対象となる建物の時価は、その請求権行使につき特別の意思表示のない限り、その建物の上に抵当権の設定があると否とに拘りなく定まって居るものと解するを相当とするから、原審が、本件買取請求権行使当時の本件建物の時価は、所論根抵当権の負担あることを考量に入れない鑑定価格に基づき530,625円である旨認定判示したのは、正当であり、判断についての右の立場を明示する意味においても、原審が右具体的価額を判示したことに意義がある。されば、原審が本件建物の時価を具体的に判示したことを無意味不必要とし、これを前提として本件に民法577条を適用する余地がないとする論旨は、前提において既に失当である。
更に、反対債権たる代金請求権は、当該訴訟における訴訟物とならず、従って、これが引換給付判決の主文に掲記せられて居る場合においても、その存在及び数額について既判力を生ずる余地はないのであるから、原審が判決主文においてこれとの引換給付を命じなかったことが所論代金請求権の存否につき既判力を生ぜしめない結果を招いたとして原審判断を非難する論旨も亦、前提において既に失当である。
その他の点につき論旨は縷々主張するところがあるけれども、原審の認定判示に添わないことを仮定して原審の判断を非難するものであって、上告適法の理由とならない。
論旨は、すべて、採るを得ない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官石坂修一、裁判官横田正俊、
裁判官河村又介は退官につき署名捺印できない。裁判長裁判官石坂修一
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2016.07.19
| 建物買取請求権・時価
最高裁判例
借地法10条の建物の時価の算定
(最高裁 昭和35年12月20日判決 民集14巻14号3130頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人長谷川毅の上告理由第一点について。
借地法10条にいう建物の「時価」とは、建物を取毀った場合の動産としての価格ではなく、建物が現存するままの状態における価格である。そして、この場合 の建物が現存するままの状態における価格には、該建物の敷地の借地権そのものの価格は加算すべきでないが、該建物の存在する場所的環境については参酌すべ きである。何故なら、特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益であり、また建物の存在する場所的環境を考慮に入れて該建物の取引を行うことは一般取引における通念であるからである。
されば原判決において建物の存在する環境によって異なる場所 的価値はこれを含まず、従って建物がへんぴな所にあるとまた繁華な所にあるとを問わず、その場所の如何によって価格を異にしないものと解するのが相当であると判示しているのは、借地法10条にいう建物の「時価」についての解釈を誤ったものといわなければならない。
しかし、原判決を熟読玩味すれば、原判決に おいて判定した本件建物の時価は、建物が現存する状態における建物自体の価格を算定しており、本件建物の存在する場所的環境が自ら考慮に入れられていることを看取するに難くないから、原判決における上記瑕疵は結局判決に影響を及ぼすものでないといわなければならない。論旨は結局理由がない。
よって,民訴396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官 高橋潔、裁判官島保、裁判官河村又介、裁判官石坂修一
裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。 裁判長裁判官高橋 潔
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2016.07.15
| 建物買取請求権・時価
最高裁判例
有料社宅の使用関係は賃貸借
(最高裁 昭和29年11月16日 判決 民集8巻11号2047頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人高橋銀治の上告理由(後記)について。
会社とその従業員との間における有料社宅の使用関係が賃貸借であるか、その他の契約関係であるかは、画一的に決定し得るものではなく、各場合における契約の趣旨いかんによって定まるものと言わねばならない。原判決がその理由に引用した第1審判決の認定によれば、被上告人会社は、その従業員であった上告人に 本件家屋の1室を社宅として給与し、社宅料として1か月金36円を徴してきたが、これは従業員の能率の向上を図り厚生施設の一助に資したもので、社宅料は維持費の一部に過ぎず社宅使用の対価ではなく、社宅を使用することができるのは従業員たる身分を保有する期間に限られる趣旨の特殊の契約関係であって賃貸借関係ではないというのである。
論旨は、本件には賃借権の存在を証明し得る証拠があるにかかわらず、原判決はこれを無視してその存在を否定し法律関係の認定を誤った違法があるというのであって、帰するところ原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにほかならないので採用できない。
よって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官井上登、裁判官島保、裁判官河村又介、裁判官小林俊三、裁判官本村善太郎
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2016.07.13
| 社宅
最高裁判例
従業員専用の寮の使用関係は賃貸借
(最高裁 昭和31年11月16日判決 民集10巻11号1453頁)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人時田至の上告理由について。
本件家屋の係争各6畳室に対する被上告人等の使用関係については、原判決は、判示各証拠を綜合して、その使用料は右各室使用の対価として支払われたもので あり、被上告人等と訴外会社との間の右室に関する使用契約は、本件家屋が訴外会社の従業員専用の寮であることにかかわりなく、これを賃貸借契約と解すべきであるとしていることは原判文上明らかである。およそ、会社その他の従業員のいわゆる社宅寮等の使用関係についても、その態様はいろいろであって必ずしも 一律にその法律上の性質を論ずることはできないのであって本件被上告人等の右室使用の関係を、原判決が諸般の証拠を綜合して認定した事実にもとづき賃貸借関係であると判断したことをもって所論のような理由によって、直ちにあやまりであると即断することはできない。論旨は、畢竟,原判決の右判断の某礎となった事実の認定を争うに帰し採用することはできない。
よって、民訴4401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官小谷勝重、裁判官藤田八郎、裁判官谷村唯一郎、裁判官池田克
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2016.07.11
| 社宅
最高裁判例
賃貸中の宅地を譲り受けた者は、その所有権の移転につき登記を経由しないかぎり、賃貸人たる地位の取得を賃借人に対抗できないとした事例( 最高裁 昭和49年3月19日 判決)
裁判年月日 昭和49年3月19日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
事件番号 昭和47(オ)1121
民集 第28巻2号325頁
主 文
被上告人の本訴請求中上告人に対し第1審判決添付目録第1記載の宅地につき昭和29年9月12日大阪法務局江戸堀出張所受付第12514号所有権移転請求権保全仮登記に基づく所有権移転登記完了と同時に同第2記載の建物の収去を求める部分に関する原判決を破棄し、右破棄部分を大阪高等裁判所に差し戻す。
上告人のその余の上告を棄却する。
前項の上告費用は、上告人の負担とする。
理 由
上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由第1点について。
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして肯認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
同第2点及び第3点について。
原判決は、訴外Dは昭和25年4月原審控訴人Eから第1審判決添付目録第1記載の宅地(以下本件宅地という。)を買い受けたがその所有権移転登記をしなかつたところ、昭和29年3月本件宅地を被上告人に売り渡したが、その所有権移転登記は中間を省略してEから直接被上告人に対してされる旨の合意が右三者間に成立し、被上告人は同年9月12日主文第一項記載の仮登記を経由したこと、一方、上告人は本件宅地上に右目録第2記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているが、そのうち家屋番号a番のb、c木造瓦葺2階建店舗1棟床面積1階7坪6合9勺、2階7坪9勺については昭和27年7月4日これを他から買い受けるとともに、当時本件宅地の所有者であつたDから本件宅地を建物所有の目的のもとに賃借し、右建物につき同月5日所有権移転登記を経由したこと、被上告人は昭和46年6月15日到達の書面をもつて上告人に対し昭和29年9月14日以降昭和46年5月末日までの賃料を4日以内に支払うよう催告し、上告人がこれに応じなかつたので、同年6月21日到達の書面をもつて上告人に対し賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことを、それぞれ確定したうえ、右賃貸借契約は同日解除されたとして、被上告人が土地所有権に基づき主文第1項の所有権移転登記完了と同時に上告人に対して本件建物の収去を求める本訴請求を認容したものである。
しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法177条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院昭和8年(オ)第60号同年5月9日判決・民集12巻1123頁参照)。
ところで、原判文によると、上告人が被上告人の本件宅地の所有権の取得を争つていること、また、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由していないことを自陳していることは、明らかである。それゆえ、被上告人は本件宅地につき所有権移転登記を経由したうえではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者であることを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得ることとなるわけである。したがつて、それ以前には、被上告人は右賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として賃貸借契約を解除し、上告人の有する賃借権を消滅させる権利を有しないことになる。そうすると、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由しない以前に、本件宅地の賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として本件宅地の賃貸借契約を解除する権利を有することを肯認した原判決の前示判断には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることは、明らかである。
したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を示すまでもなく、原判決中本判決主文第1項掲記の部分は破棄を免れない。そして、右部分につきなお審理の必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よつて、民訴法407条1項、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 関 根 小 郷
裁判官 天 野 武 一
裁判官 坂 本 吉 勝
裁判官 江 里 口 清 雄
裁判官 高 辻 正 己
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2016.07.07
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